表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.1:春】夜桜の約束 ―プロジェクト“S”を暴け!―
37/154

[37]ケーキと想い出

「ではクレ様、まずはこちらをどうぞ」

「え……?」


 迫力に気圧(けお)されてついて行った中庭には、自分とは真逆と思われる可愛らしい趣味のテーブルに椅子が数脚、そこへ座らされて数分独りにされたが、やがて先程の女性が大きなデコレーションケーキを目の前に供して微笑んだ。


「いや、だから食べてる時間はな──」

「お召し上がりください。完食されましたらお嬢様の居場所のヒントを差し上げます」

「えぇっ!?」


 強い口調で割り込まれた言葉に思わず大声を上げてしまう。直径二十四センチ、高さは十五センチほどだろうか? 生クリームで装飾された上部には大量の果物が山積みになっている。これを全部一人で平らげろと言うのか?


「外で待ってるメンバーを呼んでは……」

「もちろんそうされましたら無効となります」

「さいですか……」


 しかたなくしょぼくれた顔をケーキへ向け、目の前に置かれたフォークを手に取る。甘い物は苦手ではないが、朝からさすがにこの量は厳しいな、とつい酌量の余地を求める視線を女性に投げかけていた。


「サーカスの皆様が真剣であられますように、こちらもこちらで真剣なのでございます。ですから……クレ様が出来ないと仰いますなら、その程度の真剣味として理解させていただきます」

「う……」


 弱腰の表情を悟られて放たれた厳しい言葉に、さすがにここで負けたら男がすたる、と暮は一転戦闘体制の顔つきに変わった。依然目の前で静かに(たたず)むメイド女性の(おもむき)も、先程と同じ(うら)らかな微笑みに戻る。そして一口──。


「わっ! うまいっ!!」


 生クリームの(ほど)()い甘さと、しっとりしたスポンジの柔らかさ、その両方を引き立てるフルーツの爽やかな甘酸っぱさ……どれをとっても非の打ち所がなく、気付けば一口また一口とケーキを運ぶ手を止められずにいた。


「クレ様、お紅茶をお持ち致しました」


 目の前の女性は身じろぎもせずに見守っているのに、ふと左手から同じ声が聞こえてきて、振り向いた暮は危うくケーキを噴き出すところだった。


「そ……そっくり!」

「「双子ですから」」


 見上げた驚愕の眼が右へ左へと泳いでしまう。そんな暮を見下ろした二人はつい顔を見合わせて、含み笑いのような笑みを(こぼ)した。


「え……?」

「あ、申し訳ございません、クレ様。お嬢様の反応と全く同じでございましたので、何だか懐かしくなってしまいまして……」


 紅茶を差し出した女性はそう言って笑ったが、その中には不思議と淋しさも垣間見えた。


「お嬢様ってモモのことですよね? どうもこちらが把握している話とは噛み合ってこないんですが、お互い情報交換してみませんか?」


 尚もケーキを食べ続けながら、暮は二人に状況を知り得るための打診を試みた。二人は今一度顔を見合わせ、やがて紅茶の女性とは別の──こちらが花純なのだが──が一歩近付き、暮の耳元に小声で(ささや)いた。


「他の団員の皆様には一切他言されませぬならば……」


 思いがけず近寄った彼女の淡い香水がいやに(つや)っぽい。一瞬頬を赤らめた暮はその条件を呑むことに応じ、唇の端に付いたクリームを(ひと)()め、深く(うなず)いた──。




★次回更新予定は六月二十三日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ