[30]追跡と障害 〈N♪〉
秀成が連絡するまでの約三時間、男性陣はとにかく闇雲に『ベントレー』の目撃情報を聞き込んでいた。それでも何とか一つの繋がりらしき糸を手繰り寄せたのは、あの美しき『夫人』を妻とする鈴原だった。
「おーい、凪徒? 聞こえるか? 黒のベントレー・コンチネンタルGT見つけたぞ! 西隣の由倉市だ。ちょっとハッキリしないんだが、高岡ナントカって会社が所有してるって、主に社長が使っているらしい。この情報だけでもどうにか行けるか?」
携帯の向こうはクラブらしき音楽と客達の声で騒がしい。それでも鈴原が伝えた内容は凪徒には鮮明に聞こえていた。
「サンキュ、鈴原兄! 詳細は秀成に検索してもらう。悪いけど引き続き他も当たってみてくれ」
やっと小さな光明が現れて、凪徒と暮の顔にも少し明るさが戻ってきた。そこへ再びの着信音──秀成だ。
「凪徒さん? 僕です。すみません、遅くなっちゃって……ついに分かりました! 隣の由倉市、結上町の高岡プランニングです!! 高岡社長が関与しているとすれば、時間も時間ですし、会社から五キロほど先の社長宅へ向かった方がいいと思います」
「由倉市、高岡……秀成、ビンゴだっ! 良くやった!!」
「え……? あれ、もしかして先に辿り着いちゃってました?」
「半分ほどな、でもこれで確証を得たんだ。お前の手柄だよ! 悪いが片瀬駅からの最短ルートを割り出して送ってくれ」
残念ながら凪徒の借りた営業車にはナビがない。秀成は嬉しそうに「了解しました」と電話を切り、暮はグループ毎に連絡をして、全員に由倉市へ向かうよう伝えた。
「さて……これからだ、凪徒。高岡社長からモモの居所を聞き出せるのか否か……」
「吐ける物は全部吐かせてやるよ……」
──怖っ!!
久し振りに見せる死神のような吊り目に慄く。駆け出す凪徒を慌てて追いかけた暮は、それでも半分喜んでいた。
団員全員が本気でモモを心配していること。きっとこれが団長の真の狙いだ。そしてそれがモモに伝わりさえすれば──。
サーカスはやっと一つにまとまるのかもしれない。モモにとっても居心地の良い、気兼ねなど要らない温かな『我が家』へと!
☆ ☆ ☆
夜半の県道はさすがに空いていた。まだ顔を出さない太陽だが、そのうち少しずつ東の空を明るく染め上げるだろう。
秀成のナビゲーションは全員の携帯に送られたお陰で、いつのまにか前後に見覚えのある車が数台確認された。一同気持ちを一つにして高岡邸を目指す。──自分達の仲間を取り戻すために。
しばらく進んだ前方に、『工事中』の立て看板と迂回路の矢印が現れた。仕方なく一行はその回り道に従ったが、行けども行けども元のルートに戻れず、それどころか由倉市から離されていることにやがて気が付いた。
「何だ……? 明らかに東に進まされてる。秀成、聞こえるか?」
「はい、凪徒さん。いえ、そんな大掛かりな工事の情報なんて出ていませんよ。突発的な事故や事件の可能性は見えませんか?」
「いや……バリケードの向こうは静かなもんだ。これも組織の妨害なのか?」
凪徒は暮に路肩へ停めるよう指示を出し、工事用フェンスの手前まで歩み寄った。その向こうは無人な上に工事のための重機すらない。
「その可能性が高そうですね……」
凪徒が通話しながら映す動画を確認した秀成は、どれほど大きな組織を相手にしてしまったのかと電話の向こうで息を呑んだ。人影すら見えないモモの捕獲者──それは一体……?
──俺達にどうしろって言うんだ!
足止めを食らって停車した全員の車から、呆然とした男達の姿が現れ立ち尽くした。
その背中を照らし出した朝陽は次第に温かみを帯びたが、誰もが凍てつく心から救われる術を見出せずにいた──。
★次回更新予定は六月二日です。
★以降は前回連載時の後書きです。
以前頂いておきながら挿入し損ねておりました希都様からの『死神凪徒』でございますw
希都様☆ いつも本当に有難うございます!!
2014年10月22日 朧 月夜 拝




