[28]家族と月 〈M♪〉
モモは偽りのない心からの言葉をぶつけられて、それを機に少しずつ何かが変わっていった。花純と桔梗が邸宅では当たり前だったメイド口調をかなり和らげてくれたこともあって、ショッピングモールへのドライブの最中も、沢山の洋服が溢れた小さな店を転々と覗いて歩く間も、吹っ切れたように自然とお喋りが弾んだ。きっと傍から見た四人は、どこにでもいそうな父親と三姉妹に映ったことだろう。
途中フードコートでそれぞれ食べたい食事を注文し、ざわめく店内で声を張り上げながら昼食を楽しんだ。最終日となる明日は高岡のリクエストで遊園地へ行くことになり、そのための洋服を双子の『姉達』が選んでくれた。少し甘めのチュニックとクロップド・パンツ。活動的でありながら思春期の少女らしい可憐な装い。ジャージでは憚られる場所へ行くにもジーンズ程度しか持っていなかったモモには、それは眩しいと思えるくらい輝いて見えた。
「ありがとうございます! お父様」
けれど高岡にはモモの笑顔の方がよっぽど煌めいて見えたに違いない。一寸の違いもなく重なる明日葉の笑顔。目の前には一年振りに再会出来た娘その人が立っていた。
「もう一着プレゼントさせておくれ。君もこれからは必要になることもあるだろう」
そう言って高岡が足を運んだのは普段使いのエリアではなく、もう一ランク上のパーティドレスの一角だった。
「え……?」
「年上の仲間が多いのだからね。結婚式などに呼ばれることもその内にはきっとあると思うよ。一着くらい持っていると便利だろう。気に入る物はありそうかい?」
モモは少々戸惑いながらも辺りをゆっくり見回した。左から右へ……やがて一番端の淡いミルキーグリーンのワンピースが目に留まり、いつの間にか釘づけになっていた。
「どうやらお目当てが見つかったみたいだね。試着して見せてくれるかな?」
「は……はい」
明日葉のピンク色のワンピースも、純白のツーピースも、どれも素敵で可愛らしかったが、自分には少し大人びて感じられた。それに比べて手に取ったこの衣装は、何かがストンと胸に落ちてくるような納得のいく手応えがあったのだ。
「やっぱり自分で選んだ物は似合うものですね」
花純と桔梗が更衣室のカーテンから顔を覗かせ、大きく頷きながら微笑む。やがて披露されたその姿で、紳士の顔にも満面の笑みが刻まれた。
「とってもお似合いだよ、明日葉」
「嬉しいです、お父様!」
家族がいたらこんな風に買い物をして、食事をして、こんな風に笑い合えるのだと、何となくでも感じ取れた自分がいた。施設ともサーカスとも違う自分。でもこの『自分』はたとえ環境が戻っても、永遠に自分のものになったのだと思う。そんな確信がモモの中に芽生えていた。
それから高岡は少し歩き疲れたと言い、カフェで休むと独り離れていった。モモが余命宣告の病を心配したので花純は付き添うとその後を追い、桔梗は明日のための鞄と、先程のドレスのための小物を選ぶことを提案して、後ろ髪引かれるモモの背中を優しく押した。
全てのコーディネートを終えて戻った頃には、既に紳士は元気を取り戻していた。四人揃ってパンケーキを楽しみ、それから無事に帰路に着いた。
遅い夕食を作り出した頃には既に宵闇は広がり、明日の天気を願ってモモは窓の向こうの月を見上げた。そして……ちょうど今、行なわれているであろう貸切公演の成功を祈って──。
★次回更新予定は五月二十六日です。
★以降は前回連載時の後書きです。
いつもお付き合い誠に有難うございます!
こちらのサイトとツイッターにて仲良くしていただいております希都様より、『ワンピース姿のモモ』をとっても可愛らしく描いていただきました♪
希都様♡ ステキなイラスト、本当に有難うございました!!
2014年5月26日 朧 月夜 拝




