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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.1:春】夜桜の約束 ―プロジェクト“S”を暴け!―
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[25]雨と答え

 平日午後早い時刻のハイウェイは走る車も少なく、広がる空間は薄灰色をしていても気持ちは開放された。途中サービスエリアに立ち寄り、温かなコーヒーとココア、ちょっとしたスナックを買い込んで、海の見える展望台に到着したのはそれから四十分ほどが経った頃だった。


「あ……雨、降ってきちゃいましたね……」


 駐車場には一台の車もない。車内からでも見えるように、高岡は一番見晴らしの良い場所へ車を停めた。しばらくそのまま車窓を埋め尽くす淡く穏やかな海原(うなばら)を眺めていたが、次第に水玉がその景色を彩り出した。


「傘は二本あるよ。外へ出ようか?」

「はい」


 後部座席下に寝かされていた傘を差し出す。高岡も自分の傘を広げて助手席側に回り込み、モモが濡れないよう配慮をした。高岡は濃いグレーのスーツに紺色の大きな傘、モモは白いツーピースに真っ赤な傘。ぼんやりとしたキャンバスに鮮やかな色が添えられた。


「晴れた海が一番ですけど、こういう天気も悪くないですね」


 しとしとと降る雨は不思議と優しく感じられた。温かくはないけれど、守られている感じがする。


「そうだね。明日葉も雨の日が好きだった。雨は全ての悲しみを洗い流してくれる。そんな気がすると言っていた」

「悲しみ……」


 明日葉はどんな気持ちで病室や自室からその雨を眺めていたのだろう。そう思ったら、自分の身体の自由さはどれほど幸せなことかしれない。


「君は……いつもそんな調子なのかい?」

「え?」


 ふと掛けられた質問に、モモは眼下の海から自分に向けられた高岡の顔を見上げた。


「何て言うのかな。私に敬語を使うのは仕方がないのだろうが、それに遠慮や気遣いが切なくなるほど感じられる……君は今いる場所でもそういう口調なのかい?」

「今いる場所……」


 ──サーカス。


 自分ではそんなつもりなどないとモモは思ったが、その言葉が引き金となって、凪徒と暮の言葉が思い出された。




 『無理するな』




 ──無理……してるんだろうか?


「自覚はないのですけど……これで三度目の指摘になりますから、そうなのです、かね……」


 柵に掛けた右手の先に視線を落として気まずそうに答えたが、やっぱり良く分からない気がした。


「あのサーカスに入って、もう何年になるんだい?」

「ちょうど二年です。入って三ヶ月後にデビューしました」

「三ヶ月……! それまでに経験は?」

「いえ……運動部の手伝いで良く色々な競技に出場しましたが、特に何かを専門的にやったことはありませんでした」

「ふうむ……」


 そこまでの質問と答えに高岡は一つ大きな息を吐いた。口元に手をやった姿は何かを考え込んでいるようだった。


「タマちゃんは、それ(、、)を私に直させようとして、君を預けたのかもしれないね」

「え?」


 先程までまとまらないように揺らいでいた瞳が焦点を合わせる。高岡はにっこりとモモに微笑んだ。


「君は自分の場所であるのに気後(きおく)れしているんだ。今の私には的確にその原因を言い当てられないが、多分おのずと見えてくるだろう。タマちゃんはこのままサーカスにいても君を変えられないと思った。だからこうして……それにね、明日葉。昨夜話す筈だった回答もここに加わるのだと思うよ」

「はい?」

「君は甘え方を知らない。たとえ父娘(おやこ)ごっこだとしても、そこから少しでも得られるものがあれば……タマちゃんはきっとそう思ったんだ。だからね……あと二日しかないけれど、頭と心の中身をまっさらにしてごらん」

「頭と心の中身──」


 高岡の言葉の意味は分かっても、まだそれを感じ取るための心が動いていなかった。それでも得たいと思う気持ちはあった。そこに凪徒達が不自然さを感じていることは気付けたから。


「サーカスの皆さんに誘拐事件と思わせたのも、そういうことだね」

「え?」


 しかしその理由を高岡は語らず、ただ慈雨を受け入れる大きな海という()れ物と、戸惑うモモの大きな瞳に映る自分の姿を見つめていた──。




★次回更新予定は五月十七日です。

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