[19]凪徒とモモ 〈K♪〉
★宜しかったら前話文末数行をお読みになってから、こちらをお読みください(^人^)
「ふぁっくしょん!!」
「凪徒さん……風邪ですか?」
午後後半のショーを終えた音響照明スペースに、小気味良くキーボードを叩く音と、必要以上に大きなクシャミが響いていた。
「誰かが噂してるんだろ」
「モモじゃないですかぁ?」
「うるせっ」
鼻を擦ってあぐらに頬杖を突く。案の定、手伝ったことのバレた子供達は親達から説教を受け、秀成もその順番待ちだった。お陰で二・三度目のショーの間、自身での仕事を強いられた秀成は、凪徒からのお願いをこなせず仕舞い。そのため説教開始までの貴重な時間、こうして凪徒監視の元、Nシステムへの侵入を試みているという次第だが──
「おっかしいな……誰かが邪魔してる」
「誰かがじゃなくて、普通そういうものなんだろ?」
夜の貸切公演のため、再び夜中まで捜索出来なくなることもあって、凪徒はジリジリと苛立ち始めていた。
「違うんです。明らかに第三者が介入してる……これは手ごわいですよー凪徒さんっ」
そう言いながらも秀成の画面を見つめる眼はギラギラと輝き出していた。どうも彼の闘争心に火が点いたらしい。
凪徒はしばらく舌打ちでもしたくなりそうな口元を引き締めて、ぼんやり秀成の手元や画面を見つめていた。が、どうにも自分にはやれることがないな、と一声かけてステージに降り立ったところ、秀成を迎えに来た暮が向こうの方から手を振った。
「おーい、凪徒~成果はどうだ?」
あの団長室で既に話を聞き、特に反論も同意もしなかった暮を、団長側についているのかそれとも自分側の人間なのか、凪徒は判断しかねていた。
「宅よ……どっちの味方なんだよ」
「『宅』呼ばわりとは怖い怖い」
真面目に答える気のない暮に更にむかついた凪徒は、彼の襟元に掴みかかった。
「少し落ち着けよ~凪徒。そうやってすぐ頭に血が上るのがお前の悪いところだ。おれはお前の味方だよ。おれだって幾らお国のためになんて言われたって、モモの自由や未来が奪われるのは御免だ。でもさ、それはきっと団長も同じ筈だと思わないか? だからおれはちょっと様子を見ているって訳。いざとなったらちゃんとやるから待ってろって」
「いざとなったらって……」
いつものおどけたウィンクと、自分の短気を指摘された恥ずかしさから、凪徒はその手を放して横目に逸らせた。──分かってる……でも時間がない。落ち着いて考えるだけの余裕もない。
「お前だって団長がそこまで薄情だとは思っていないだろ? この二年、団長は娘のようにモモを可愛がってきたんだ。これにはきっと何か『裏』があるんだよ」
「裏……?」
暮のマイペースに凪徒はふと視線を落とした。──確かに自分は焦り過ぎているのかもしれない。いつの間にか、気付けば周りの空気さえ読めなくなっていた。
そんな自己嫌悪の青年の横で、暮は自分の言葉に何か引っかかるものを感じていた。──ああ……分かった。『娘』って言ったことだ。団長にとったら、モモなんてもう『孫』の域か?
そう思い始めたらつい含み笑いが止まらなくなったが、身動きすらしなくなった凪徒の身体を目に入れて、暮はもう一度口を開いた。
「素直になれよ」
「……え?」
暮の見上げる、凪徒の見下ろす目線がかち合う。
「お前にとって、モモは何だ?」
「俺に……とって?」
しばらく凪徒は言葉が出てこなかった。自分にとってのモモとは? ──そんなこと、考えたことも決めつけたこともない。
「まぁ……答えは急がなくていいさ。それより秀成借りていくぞー。早くしないと団長達の首が長くなっちまう」
「ああ……」
二人は会話を止めてそれぞれの方向へ向かうためすれ違った。数歩進んで暮は一度振り返り、凪徒の広い背に言葉を投げる。
「団長の言う通り、ショーに影響しない程度で動くんだぞ! 特に夫人に迷惑掛けんなよー」
凪徒は振り返らないままトボトボと足を動かし、『了解』を意味するように右手を小さく振ってみせた──。
★次回更新予定は四月三十日です。
★以降は前回連載時の後書きです。
いつもお読みくださいまして誠にありがとうございます!
今話文末にて、ツイッターで仲良しでしたkaoko様(既に退会されていらっしゃいます)より頂戴致しました『ピエロの暮』のイラストをご紹介させていただきました♪
実際にはこんなに若く格好良かったりなどしないのですが(笑)、彼の内面はどのキャラよりもイケメンでございまして、そんな内なる物を外見に反映してくださいましたとても素敵な暮なのでございます♡
kaoko様、改めまして本当に有難うございました!
お読みくださっている皆々様、これからも暮と珠園サーカスをどうぞ宜しくお願い致します!!
2014年4月26日 朧 月夜 拝




