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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Special.2:再春】夜桜の約束? ―モモ、ついに魔の手に……あ、いや―
151/154

[4段階]

「あ、ちゃんとクローゼットもあるんだ……」


 モモは凪徒の上着を抱えたまま、部屋を見回して壁の一部にそれを見つけた。ハンガーに吊るし、自分のコートも脱いで隣に掛ける。


 自分の(カバン)と、無造作に置いていかれた凪徒の鞄を広めのローカウンターに置き、手持ち無沙汰な様子でベッドの長手に腰を降ろした。


 ふわっとしたチェックの掛布団が、やんわりと沈んだ。


 ──あったかいけど……このパーカー脱いで待ってたら、いかにも「お待ちしておりました」って感じに思われるんだろうか……。


 モモはそんなことを心配しながら、厚手のトレーナー地を見下ろした。


 ──おっきいベッドだなぁ~。


 振り向けば花畑のように広がるピンク色の波が見えて、それは明日葉のよりもモスクワのホテルよりも、一回り広いように思われた。これから此処で過ごす時間の中身が、曖昧(あいまい)にしか想像されない無垢(むく)なモモにとっては、このベッドの心地良さが今の全てだった。


 ──気持ちい……──


 サイドに足を降ろしたまま上半身だけを倒す。柔らかい布の感触と、何処(どこ)かから香る微かな花の匂いに誘われて、モモはゆっくり(まぶた)を伏せた。




 ♡ ♡ ♡




 一方、バスルームの凪徒は──。


 ──俺、何でこんなに焦ってるんだ!?


 シャワーから流れるちょうど良い温度の(しずく)の下で、落ち着かない心を持て余していた。


 ──まったく……全ては団長の所為(せい)だっつうのっ。あんな約束、守れるかって! ……いや、俺は、守ったけどな……。


 珠園サーカスには、実は女性陣には明かされていない『鬼の鉄則』がある。


『大事なお嬢さんをお預かりしているんだから、色々と分別のつく年頃──十八歳の誕生日までは、絶対に手を出したらいかんよ~』


 と、あの恵比須顔で(さと)され、全ての独身男性は入団時に誓約書を書かされるのだ。


 ──お陰でどんだけ待たされたことか……あ? いや……俺、いつからモモを好きになったんだ?


 ガシガシと身体を(こす)りながら、ふと浮かんだ疑問に自ら問い掛けてしまった。


 凪徒が初めてモモに出逢ったのは、二十一歳になりたての頃、モモはまだ十五歳少し手前だった。──その時は明らかに『中坊のガキ』だと思っていた筈であるし、昨春出た自分の答えは『相棒』の二文字だった。昨夏には『腹違いの妹』だとばかり思っていた訳だし……? でもロシア行きが決まった際には「そんな『目の前にエサぶら下げられた状態』なんて地獄だ!」と思っていたのは間違いない……。




「まさか……あいつをパートナーとして選んだのはこの俺だ。今更あいつの良いところに気付いたりなんてしない」




 先月相対した洸騎に向けて発した言葉。凪徒はいきなり思い出された自身の台詞(セリフ)に、ふっと天井を見上げ考えを巡らせた。


 ──結局、俺はモモの舞に、初めから惚れてたってことか……?


「あ~! んなの、どうでもいい!」


 凪徒は独りぼやいて、お次に髪を掻き乱したが──


 ──俺、モモを待つ前にシャワールームで頭洗ったよな?


「もうそれもどうでもいっ!!」


 騒がしい心が鎮まらないまま、洗い立ての黒髪を再び乱暴に洗い出した。




 ♡ ♡ ♡




 それから十分程が経過して──。


「モモ~お前も風呂入るかぁ?」


 ふわふわの白いバスローブを(まと)った凪徒は、(したた)る髪をタオルで(ぬぐ)いながら、扉を開けて声を掛けた。けれど揺らぐ布から垣間見える景色には、動く物が一切見当たらず、またその問いに対する答えも返ってきはしなかった。


「……こいっつ……」


 ベッドのこちら側で微動だにしない、突っ伏した背中に気付き覗き込む。


「寝てやがる……!」


 ふつふつと込み上げる何かを抑えた凪徒は、思わず拳を震わせた。あどけない寝顔に噛みついてやろうかと、その衝動と独り格闘していた──。




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