表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Special.2:再春】夜桜の約束? ―モモ、ついに魔の手に……あ、いや―
150/154

[3段階]

 ──やっぱり……ちっとも、ロマンティストじゃなかった……。




 モモは停められた車の外を見回して、初めて見る景色に(おのの)いた。


 あれから無人の寝台車に戻り、凪徒の言う通り、取り急ぎ翌日の着替えだけを(カバン)に収めた。戻ってきた女性陣が心配しないよう何か良い言い訳は? と頭を巡らせ、結局『高岡邸に招かれた』という嘘しか思いつかず、心苦しくもそんな置き手紙を残して駐車場を目指した。


 凪徒は約束通り、最近購入した新車の運転席でモモを待っていた。助手席側の窓を軽く叩かれたので解錠し、当惑気味のモモが静かに乗り込む。言葉もなく視線も合わせない少女に、今一度「本当にいいんだよな?」と尋ねたが、モモは恥じらうように(うつむ)いて、無言で小さく(うなず)いた。


 発進した車の中で、それでも夜景を楽しむように、ちょっとしたドライブにでも連れていってくれるのではないかと、モモは(ほの)かな期待をした。せめて心の準備が出来るくらいの時間──が、未だ新車の匂いのするそれは、高速道路の出口近くに点在する『目的地』の駐車場に、ためらいもなく真っ直ぐ滑り込んでいった。


 ──元々もう遅い時間なのだし、そういう訳にはいかなかったのだと思おう……。


 凪徒が降車し、後部座席のドアを開けて自分の荷を取ったので、モモもあたふたと胸に抱いている鞄ごと車を降りた。回ってモモに近寄った凪徒は、入口を目指して背を向けたが、おもむろに左手を伸ばし、


「ん」

「あ……」


 相変わらずそっけない態度だったが、モモの右手を優しく握っていた。


 ──先輩と……初めて手、繋いだ……。


 けれどその行き着く場所が場所だけに、逃げないよう捕獲されているだけの気もしてしまう。


「モモは、どの部屋がいい?」


 自動ドアの向こうには、部屋の様子を写したパネルが並んでいて、各下にはそれぞれの金額が表示されていた。


「え、えと……」

「宿代なんて気にしなくていいから、自分の好みで選べ」

「は、はい……」


 頭上からの声はいつもの調子なのだが、見ている物の異質さが手伝って、モモにはプレッシャー以外の何物も感じられない。それでもキョロキョロと見回している内に、右上の淡い桃色が視界に入り、考えがまとまる前に指差していた。


「あの、では……此処で」


 他のパネルに比べて柔らかなトーンの部屋に、派手過ぎないピンク色を基調とした、細かいチェック柄のベッドが置かれている。


「ああ。何かモモらしいな」


 凪徒も納得が行ったらしく、左端のボタンを押して鍵を受け取り、モモをエレベーターに(いざな)った。


「先に入れよ」


 点滅するルームナンバー下の扉の中へ、凪徒はモモを促した。一歩進んだ先の(あが)(かまち)にスリッパが二足並んでいる。下ろし立てのスニーカーを脱ぎ揃えて、その内の一足に履き替えたモモは、凪徒の邪魔にならないよう目の前のドアを押し開け室内に入った。


「……あったかい……」


 途端、蜂蜜のようにとろけた温かみが、冷えた頬に(まと)わりつき、モモは立ち止まって瞳を閉じた。けれどそれも一瞬の内で、


「モモ」


 後ろから続いてきた大きな影が、あの退団の意のくつがえされた時と同様に背後から抱き締め、モモは驚いて目を見開いた──その先には──入口のパネルで気に入ったベッドが視界全部を占めて、思いがけない脅威に心臓が大きく波立つ。そしてそれは凪徒も同じ想いであったらしく……


「お、俺、シャワー浴びてくるっ」


 慌てて手を放し(きびす)を返した背中に、自由になったモモも慌てて声を掛けていた。


「あ……せ、先輩、上着……」

「ああ? んじゃ、頼むっ」


 変な空気でおぼつかなくなったまま、何とか上着を()いでモモに放り、凪徒は独りバスルームに駆け込んでいった──。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ