表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Special.2:再春】夜桜の約束? ―モモ、ついに魔の手に……あ、いや―
148/154

[1段階]

「行ってらっしゃーい! 楽しんできてくださいね!!」


 モモは同じ寝台車の独身女性三人に手を振った。お洒落(シャレ)をしてメイクもバッチリ決めた女性陣は、満面の笑顔でモモに応え、はしゃぎながら外へ消えてゆく。今宵の貸切公演を見に来ていた地元青年団と意気投合し、彼等の宴会に招かれたのだそう。モモは未だアルコールが呑めない為、彼女達のお誘いは断って、独りお留守番とあいなった。


 毎春を過ごす桜並木の町へと移動し、既に一週間が過ぎていた。明日は初めての休演日だ。外の空気も少しずつ暖かみを増して、今夜は誰もが解放感に満たされているのだろう。モモも昨年同様に依然五分咲きの夜桜を鑑賞しようと、上着を着込んで車を降りた。


 それでも時折吹く風は、柔らかな印象の春風には程遠かった。その分空気は澄み渡って、淡雪のような桜の波が、ずっと先まで望めるだろうと嬉しくなる。そんな気持ちを表すように、弾む足取りで向かった敷地の角には、昨春と同じくのっぽの背中が立っていた。


「……先輩?」

「うん? ……やっと来たか」


 のそのそと振り返った顔はいつも通りのヘの字口だが、向けられた吊り目には普段の鋭さは見えなかった。


「あたしを……待ってたんですか?」

「まあな」


 遠慮がちに近付くモモにそっけない返事をして、凪徒は身体と顔をフェンスの向こうの桜へと戻した。


「でも……未だ満開ではないですよ、ね……」


 凪徒にならってフェンスにもたれ掛かったモモの眼には、丸められ抱えられた毛布が、彼の向こう側にチラと映り込んだ。


「んなこた分かってる。あと数日後だろ。そっちはちゃんと連れていってやる」

「はい……」


 ──あたしが此処に来るとは限らなかったのに、何でだろう? あたし……何か、お説教されるようなことでもして、待ち伏せされてたんだろうか……。


 いつになく張り詰めた雰囲気を感じたモモは、それ以上言葉を繋げなかった。


 =ひゅるる……=


 その時、坂の下から桜の花びらを巻き上げて、あの真白い絨毯(じゅうたん)を敷き詰めていた川面(かわも)の風が、頬のぬくもりを(さら)っていった。


「……んっ──くしゅん!」


 例え説教であろうとも並んで桜を見られるならと、相当我慢をしてみたのだが、ついにはクシャミが飛び出してしまう。モモは自身にガッカリしながら、恐る恐る隣の凪徒を見上げた。きっと「もう行くぞ。こんなんで風邪引かれたら俺が困る」──そう言われながら髪を掻き乱され、帰らざるを得なくなるのだろうと我が身を憂いた。


 案の定(きびす)を返し、右目の視界から去りゆく凪徒。モモは次に来るであろう想像した台詞(セリフ)を待ちながら、気付かれないように静かな溜息を一つついた。──が、


「モモ。……こっち来い」

「え?」


 掛けられた後ろからの声に、勢い良く半回転する。背後にぽつんと置かれていた二人用のベンチに、肩から毛布を掛けた凪徒が座っていた。


「は、はい」


 今までにないシチュエーションに、(かす)かに戸惑いを感じながらも、モモはいそいそと近付いた。どうしてなのかベンチの真ん中が陣取られている為、その端の(わず)かなスペースにちょこんと腰を降ろしたが、大股に開かれた長い脚が邪魔をして、まるで人間椅子のようになってしまう。


「お前は馬鹿か」

「え?」


 両腕を膝小僧に伸ばし、せせこましそうな体勢で踏ん張っていると、呆れたように言葉が落とされた。モモは咄嗟(とっさ)に顔を上げる。──すると、


「誰が隣に座れと言った。……こっちだ」

「えっ!」


 毛布をひるがえされ、すぐ横の左脚に軽くこづかれて、さすがに鈍感なモモも気付かされた。──せ、先輩の……脚の……上……!?


「嫌だったらいい。……俺は帰るぞ」


 ほんのり()ね気味に返した凪徒は軽く腰を浮かせたが、モモは慌てて立ち上がり、その好意に甘える姿勢を見せた。


「いっ、嫌なんかじゃないです! しっ、失礼させていただきます!!」


 右手と右足が同時に出そうな勢いで、空けられたスペースにカチコチの身体を何とか収めてみる。けれど凪徒の(もも)の上に自分の体重を掛けることには気が引けて、やはり先程同様人間椅子になった。


「お前の体重なんて、たかが知れてるんだ。ちゃんと座れって」

「は、はい~」


 モモは恥ずかしそうに力を抜き、やがてその重みに満足したように、凪徒はモモの肩にも毛布の裾をふんわりと掛けた。


 ──せ、先輩の脚の上に座って、お、同じ毛布に、く、く、くるまれてる……!?


 モモは「もしも夢なら醒めないで!」と、心の中でお祈りをした──。




★以降は2014~15年に連載していた際の後書きです。


 ついに最後のストーリーへ良くぞ辿(たど)り着いてくださいました! 本当に有難うございます!!


 こちらはかな~りヤキモキされると思いますので、全六話を続けて投稿致します☆


 そしてかな~り今まででは考えられない方向へ参ります(汗)。クレームは一切受け付けませんので(笑)、何とか最後までついて来ていただきたいと思います* 全ては今まで我慢してきた凪徒の為です←えw


 素敵な戴きイラストやコラボ・イラストもございますので、どうぞお楽しみにしてください♪


 何卒宜しくお願い申し上げます♡



   朧 月夜 拝




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ