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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.1:春】夜桜の約束 ―プロジェクト“S”を暴け!―
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[14]散財と不在

★お読みくださいまして誠にありがとうございます。


 今作は2014~15年に掛けまして連載していた作品の再掲載です。


 時代設定もその頃ですので、まだまだガラケー全盛期、ようやくスマホが主流になろうかという時期でございます。


 懐かしく思い出しながら、楽しんでいただけましたら幸いです♪




 モモが高岡の昔話から解放され、やっと本日初めての食事にありついていた頃、秀成は──。


 ──やっぱりこのスペックじゃサクサクはいかないなぁ……。


 午前の公演中、せせこましい音響照明スペースにて。二人の子供に自分の仕事をやらせながら、ノートパソコンと睨めっこをしていた。


 団員の子供達を小間使いにしただなんてバレれば、その親達と団長から説教を受けることになるのは分かっているのだが、凪徒のお仕置きタイムに比べたら子守唄に聞こえるほど楽な時間だ。子供達も日頃から秀成の傍らで操作を見てきたため、ほぼ指示通りに作業をこなしてくれた。


 二日目のこの日は午前一回と午後に二回、夜には予約の貸切公演も入っている。そんな中で有って無いようなモモの手掛りを見つけ出し、彼女の居所を突き止めろというのだからたまったものではない。


 既に昨夜からネット上で探りを入れているが、なかなか情報は集まらなかった。凪徒のスヤスヤと気持ちの良さそうな寝顔に、何度落書きでもしてやろうかと油性ペンを握ったかしれない。が、その仕返しは倍では済まされないことは分かっているので、眠い眼を(こす)りながらも徹夜で励み、朝方には何とかたった一つ、それらしき呟きを見つけていた。


「どうだ~秀成、何か見つかったか?」


 公演が終わったのだろう、気付けば子供達はもう消えていて、外も随分静かだった。集中していた背中に凪徒の声が掛けられ、それからよじ登ってきた彼にがっちり腕を回された。


「く、苦しい、凪徒さん……やっとモモを連れ去った車種と色には辿り着きましたよ~! だから……放してっ」

「本当かっ!?」


 大して分かりもしないのにパソコン画面に乗り出す凪徒。


「目撃情報の呟きを見つけたって言ったじゃないですか。気を失った少女らしき身体を抱えた黒ずくめの二人が、車に押し込むところを見たって……でもそこにはそれしかなくて、その呟いた人間にコンタクトを取ってみたんです。色と形、走り去った方角を教えてもらい、国道を南西に向かったことは分かりました。で、僕、上手いこと追跡する技は持っているんですが、ちょっとこのパソコンではしんどくて……凪徒さん、新しいパソコンの資金提供する気はありませんか? モモの未来が掛かってるんですよ?」

「うっ……!」


 痛い所を突いてきたなと思いつつも、凪徒に逆らえる時間はなかった。仕方なく秀成を連れて自分達の車へ向かう。もちろん財布の中身は空となっても足りず、泣く泣く枕の下のへそくりを秀成に差し出した。「見つからなかったら、分かっているな?」とやくざ並みにすごまれた秀成は震える身体と引きつる頬を何とか押さえ、午後の公演までには必ず準備を整えると飛び出していった。




 ☆ ☆ ☆




 ──次の給料までの俺の全財産が……。


 がっくり肩を落として再びテントへ向かう。午前の反省会と午後の打ち合わせを兼ねての昼食会は、時々行なわれる主要メンバーの恒例イベントだ。


「どう? 凪徒くん。モモちゃんの捜索は」


 それぞれ持ち寄ったおにぎりやパンをほおばって気付いたことや要望を話し合うが、さすがにこの時のメインはモモの誘拐事件だった。ステージ上に輪になって、座り込んだ隣の鈴原夫人が複雑な面持ちで問う。


「ちょっとした収穫はあった……でもまだその答えは出てないから、報告出来る状況になったら改めて」


 既に午前のショー前に殆どの団員へ昨夜の話は伝わっていた。あのストーカーが捕まっても対象であったモモの居所を問い(ただ)したり、凶器と化したエアガンが見つからないことを警察が不審がらなかったのは、本当にそういう理由かもしれないと皆は納得したようだった。


「ね……これ、モモちゃんの携帯電話なのだけど……」

「え?」


 鈴原夫人がジャージのポケットからこっそりと凪徒に差し出す薄桃色の二つ折り携帯。


「公演中は持っていてはいけないから、やっぱり彼女の車内にあったわ。で、思ったのよ。もし本当に団長さんの言う通りで、モモちゃんが合格してしまったら……組織の人は彼女の過去の足跡(そくせき)を消しに来るんじゃないかなって。だったら誰もいない車の中に放置しておくのもいけない気がして……凪徒くん、悪いのだけど持っていてくれる?」

「ああ……うん」


 少し気まずそうに受け取る凪徒。思春期の少女らしく愛らしいストラップやキラキラ光るシールで飾られたそれを手にすることに、微かに恥ずかしさが(にじ)み出た。


「でも何で俺に……?」

「だってそんな人達、遭遇したら怖いじゃない。それに凪徒くんはモモちゃんの──」

「まぁ……保護者みたいな者だしな」


 夫人の台詞を最後まで聞く前に凪徒は勝手に導いた答えで納得してしまい、彼女は苦々しい笑いでその横顔を見上げた。


 ──まったく、先が思いやられるわね。


 そしてまた、凪徒もふと別のことを思う。


 ──この昼飯の集まりを、モモが休んだことなんてなかったな……。


 そこにいる全ての面々が、消えてしまったモモの存在にそれぞれの思いを馳せていた──。




★多分夫人は「凪徒くんはモモちゃんの──『騎士(ナイト)』でしょ?」と言いたかったのだと思います。




★次回更新予定は四月十五日です。

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