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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[48]謝る影と感謝する影

 二人を乗せた航空機は定刻二十一時に出立し、翌三月二日の正午を少し越えて無事に到着を果たした。この時間では暮達は公演の真っ最中である為、高速バスを利用することにして、出発の時とは別の地へと移動した珠園サーカス(我が家)を目指した。夜を飛び越えながらのフライトは、様々な達成感や充足感に満たされて、二人は狭いながらも安眠を得た。バスの中では久々に見る日本の風景にぼんやり目をやりながら、いつの間にか最寄りのバス・ターミナルに辿(たど)り着いていた。


「モモ、歩くか? タクシー乗るか?」

「あたしは大丈夫です」


 距離は遠くないが少々上り坂になる為、凪徒はモモを気遣って問い掛けた。が、モモは疲れた様子もなく、スーツケースを押しながらズンズンと手前を歩き出す。


 ロシアに比べれば(トゲ)のない空気に、夕陽の温かみのある色が重なって、白い吐息もいつしか消えていた。十五分も歩いた頃にはサーカスのテントのてっぺんが見えて、流れていた心が()き止められるように胸の詰まる想いがした。懐かしさと、嬉しさと……切ない気持ち。


「モモ、すげぇぞ!」


 後ろから掛けてきた凪徒の声が珍しく興奮気味だったので、ふと立ち止まり振り返る。いつの間にこんなに坂を登ったのだろう。眼下に広がる街並みが夕焼け色に染まり、その向こうには太陽に照らされた水平線が、空と分かつように真っ直ぐ伸びていた。


「きれ、い……」


 見惚れて言葉を途切れさせたモモの背後から、賑やかな沢山の(ざわ)めきが聞こえてくる。


「あー! ほらっ、帰ってきたよー!! おかえりーモモたーん! ナッギー!」


 背中で受け止めていたスーツケースの向こうで、ずっと待ち焦がれていた声が迎えていて、モモは美しい景色を惜しみつつも皆の(もと)へと駆け出した──その刹那。


「「「モモー! おめでとーう!!」」」


 ──え?


 大勢の声が同時に祝福を投げ、眼前のゲートへ白地に黒字の横断幕が掲げられた。その言葉──




 == 祝! モモママ発見!! ==




「あ……」


 もう泣かないと決めていたのに──


 皆の笑顔と拍手と万歳三唱に、途端足が止まってしまった。それでも集まってきたメンバーに、泣くのを我慢しながら微笑んで感謝を告げる。


「ありがと……う、ございます! あり……がと……──」


 けれどやはり渦巻いた黒い煙がモモを縛りつけていた。──あたしは……みんなを、(だま)している──。


「ご、めん……なさい、ごめん、なさい……──」

「モモ?」


 その謝罪に誰からともなく疑問の呼び掛けが上がり、皆の寄せる足並みも止まってしまった。シンと静まり返った道端に、モモのすすり泣きと()びる言葉が淀んでは繋がる。


「ココは「ありがとう」だろ~モモ! なぁ?」

「そうだよーずっとお休みしたからって、謝らなくてもいいんだよ!」


 周りの困ったような慰めの言葉に、モモは益々顔を上げられず、泣くのを止められなかった。


 モモの後に続いていた凪徒の許には、暮と鈴原が歩み寄り、凪徒と同じように困惑していた、が。


「おい……あいつ、何なんだよ」

「……」


 ──暮?


 凪徒の(いぶか)しげな質問に返事もせず、暮はスタスタとモモの背中に近寄った。人ごみを掻き分け、モモの目の前に立ち、そして──


「モモ」


 ──え?


「「「えええっ!?」」」


 暮の意外な行動で、全員が一挙に目の玉をひっくり返しそうになった。


「く……れ、さ……?」


 モモの名を呼んだ直後、暮はモモをひっしと抱き締めたのだ。


「このまま黙って聞け、モモ。モモは謝らなくていい。いいんだ……誰も騙したりなんてしてないんだ。隠してることなんて、気にしなくていい。本当のことを知ったら、誰もモモのことを(とが)めたりなんてしないから。ごめんな……気付いてやれなくて、ごめんな。ずっと辛かったろ? あっちにいる間も苦しかったんだろ? なのに何にもしてやれなくて、ほんと、ごめんな──」

「暮……さん、何で……?」


 モモの涙が移ったように、微かに泣き声でひっそりと伝えた暮を、モモはきつく抱き締められた胸の内から問い返した。


「茉柚子さんから全部聞いた……なのに俺には何も出来ない……ちくっしょ──」

「ありがとう、ございます……ありがとう! ……暮さん──」


 モモは再び泣きながら、今度は感謝の言葉を叫んだ。周りは騒然としながらも、モモから「ありがとう」の言葉が聞こえて安堵する。


「意外なところに……それも随分歳の行ったライバルがいたもんだな、凪徒」


 集団からやや離れて呆然と立つ鈴原が、隣の凪徒に苦笑した。凪徒は、


「あ、ああ……。ん!? いや違うだろっ! 変なこと言うなって鈴原(にい)!!」


 慌てて否定をしたが、やはり真ん前の異様な光景に、凪徒も戸惑いを隠せずにいた。


 ──どういうことなんだ、一体……?


 依然その細い身体を抱き締める暮と、応えるように抱き締め返すモモの重なった二つの影が、敷地の手前のアスファルトに黒々と長く伸びていった──。




★次回冬編更新予定は二月十三日です。

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