表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
137/154

[47]人形と卵

「乾杯!!」


 意外なご馳走を前にして、凪徒とカミエーリアは甘めのシャンパン、椿とモモはこけもものジュースで、軽やかな音色を奏でる祝杯を挙げた。


「今だけは日本にいるのだと思ってね」

「え?」


 ふふふと笑う椿にモモは不思議そうな顔をしてみせた。ロシア最後の食事となるのだから、てっきりロシア料理が待っているのかと思いきや、食卓に並べられたのは全て日本食であったのだ。


「ロシアでは縁起が悪いと云って、誕生日前には絶対お祝いをしないのよ。でもその頃貴女はもう日本にいることだし……だからこのパーティは日本式で。ひなまつりも兼ねてね」

「ありがとう、お母さん!」


 モモと椿・凪徒とカミエーリアの間を埋め尽くす料理は、目にも鮮やかな大皿のちらし寿司に、ハマグリに似た貝のお吸い物、子供の好きそうな唐揚げにミニハンバーグ、クリーミーなポテトサラダも沢山盛り付けられていた。そして誕生日のメインとも言えるバースディ・ケーキも! 全ては椿が下ごしらえをし、カミエーリアの調理で完成されたと聞き、モモはこの仕込みの為、午前の時間を()いてくれたことに心からの感謝をした。


 十八本の赤や緑のローソクを吹き消し祝福されたモモは、もう食べられないというところまで母親の手料理を堪能した。食後に別腹だからとケーキも平らげ、甘い紅茶でホッと息をついたモモは、移動したリビングの既に自分の特等席のようなソファに腰掛けた。


 途端隣からそっと差し出された両掌程度の小箱に、驚いて椿の顔を見上げていた。


「改めて……十八歳のお誕生日おめでとう、桃瀬。私からのプレゼントよ」

「お母さん……」


 まさかバースディ・プレゼントまであるとは思わず、大きな瞳をパチクリさせてしまう。


「良かったら、開けてみて」

「は、はいっ」


 優しいハート模様の包装紙を(ほど)き、中の紙箱を開いて取り出されたのは、ピンク色の愛らしいマトリョーシカだった。


「可愛い!」


 モモは自分の分までは買えずにいたので、一層嬉しく感激した。


「中をどんどん出してみて」


 椿の言う通りに上下に開いては、一回り小さな同じ人形を取り出していく。六つ目で終わりを告げ、中から光り輝くうずらの卵程の小さなペンダントヘッドが現れた。


「これ……?」

「母が私にくれた、代々受け継がれるイースターエッグよ。これからは貴女が持っていてちょうだい」


 淡い海色のマーブル地に、波を描くように大小の宝石が並んでいた。透明度の高さと、繊細なカットより放たれる光の精度から、とても上質なダイヤモンドであることが(うかが)える。


「でもこんな、大切な物っ」

「もう分かるでしょ? 私の一番大切なものは貴女。だから貴女に持っていてもらいたいの」

「お、母さ、ん──」


 温かな胸に(いだ)かれるや、細くしなやかな両腕がモモの背中を包み込んだ。しばらくは味わえないのだ──モモはこのぬくもりを忘れないようにと、長い時間を掛けて身体と心に染み込ませた。


 ある程度の片付けを手伝い、最後に買った土産もパッキング完了、四人はタクシーでシェレメーチエヴォ国際空港へ移動した。チェックインを無事に終えた頃、公演を終えたニーナをはじめとするサーカスの数人が見送りに来てくれた。


「Come again, Momo!(また来てね、モモ!)」

「Come to Japan, too! Someday!!(ニーナさんも! 是非いつか!!)」


 ニーナは「私、サンクトペテルブルク出身なの」と言いながら、そちらでは有名なバレエ・グッズの店「グリシコ」の、可憐なTシャツやバレエ人形を餞別にとプレゼントしてくれた。モモは何もあげられる物を持っていなかったので、秀成とリンに申し訳ないと思いつつ、差していたあのピン留めを手渡し、「When attacked by a drunk, you should be close to him this!(酔っ払いに絡まれたら、これをかざしてね!)」と説明して、ニーナの真っ白な掌に乗せた。


「ナギト、モモ、トッテモ タノシカッタ! ツギ ハ ツバキ ト ニホン デネ! ツバキ ノ コト ハ マカセテオイテ!!」


 カミエーリアが片言の日本語で挨拶をし、凪徒とモモにハグをした。改めて心強いと思う。母親の傍にはこんなに頼もしいもう一人の『ツバキ』がいる!


「スパスィーバ!(ありがとう!) カミエーリアさん!!」


 やがて出国の時刻がやって来た。


「お母さん、ごちそう本当に美味しかった。あたしも日本で頑張るね!」

「行ってらっしゃい、桃瀬。いつでもその笑顔を忘れずにね!」


 モモは深く(うなず)いて、椿の頬に自分の頬を触れさせた。温かく柔らかい感触。最後の抱擁を交わして、絶品の笑顔で手を振り離れる。




「「「ジェラーユ・ウダーチ!!(幸運を!!)」」」




 沢山の声が一斉に叫んだ。


 ──何年後になっても構わない。立派なブランコ乗りになって再会する──ニーナさんと、カミエーリアさんと、オールド・サーカスの皆と……そして力をくれた先輩と。だからお母さん、見守っていて! きっと笑顔で会ってみせるから!!


 凪徒とモモの思い切り振られた指先が、椿と皆の潤んだ視界から、羽ばたく鳥のように飛び立ち消え去った──。




★以降は2014~15年に連載していた際の後書きです。


 いつも大変お世話様になっております!


 図らずしてなのですが、ちょうどモモの本当の誕生日(三月三日)に更新となりましたので、しゃしゃり出て参りました:苦笑。


 それもまさしくバースディ・パーティのシーンです♪ あちらは二日早く、実際には三月一日でございますが*


 冬編は全五十七話にて完結ですので、これであと残り十話となりました。次回でついに帰国となり、サーカス・メンバーや施設の問題も再登場となります。切ない展開が続きますが、どうぞお付き合いをお願い致します。


 冬編の後にはまだ再春編六話と最後の最後となる後書きが残されております。そちらも楽しんでいただけましたら最高に幸せでございます♡ 何卒宜しくお願い申し上げます!



   朧 月夜 拝




★次回冬編更新予定は二月十日です。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ