[40]リメイクとリハーサル 〈Ni〉
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アルファベットを多用していますので、出来れば横書きでお読みください。
静まり返った衣装室には、昨日と同じくニーナだけが存在した。丸椅子に腰掛けた端正な横顔は、少し上方を目指していて、艶のある唇は優しい微笑みを湛えている。
「ズドラーストヴィチェ(こんにちは)、ニーナさん」
ニーナの佇む空間がやけに満たされたような流れを帯びていて、モモは一瞬言葉を掛けることをためらった。が、凪徒を待たせている場合ではない。
「Hi, Momo! How are you? I wait for you. You know……how is this?(あ、モモ! 元気? 貴女を待ってたの。ね……これ、どう?)」
「え……?」
こちらを振り返ったニーナは、モモとの再会を心から喜んでいた。そして問う、再び戻した視線の先の──
「あっ!」
モモは刹那に大声を上げた。ニーナが示したのは、壁に掛けられたモモの衣装、あの純白のチュチュ風ドレスだった。
立ち上がり、その衣装を手に取るニーナ。ハンガーから外し、顔前で目を見開くモモの身体に当ててみる。
「Yes! Perfect!!(うん! 完璧!!)」
「あ……凄いっ、ニーナさん……ハラショー! スパスィーバ!!(素敵! ありがとうございます!!)」
昨日照れてしまうほど最小限だった布地の胸元には、真っ白で愛らしいファーが、一周巻かれるように縫いつけられていた。ところどころ毛足が長く、それがくるりと弧を描いて、ふんわりとしたシルエットが可愛らしさを惹き出している。
──あたしが恥ずかしがっていたのを心配して、アレンジしてくれたんだ……!
これなら気にしないで思い切りやれる。モモは衣装を受け取り確信を得た。早速着替えて全身を映す鏡の前で満面の笑みを見せた。その姿はあたかも「白鳥の湖」でオデットを演じる可憐なバレリーナそのものだった。
「Thank you very much indeed!(本当にありがとうございます!)ニーナさん!!」
「Hmm……wait a moment, Momo.(うーん……ちょっと待ってて、モモ)」
後ろから覗いたニーナは、それでも一つ気になるところを見つけて、何かを取りに駆けていった。
☆ ☆ ☆
「な、なんか昨日とはエラい変わりようだな……」
嬉しそうなモモの前で、凪徒の戸惑う様子も昨日とはまた少し違っていた。
「え……? あ、ダメですか?」
自分は特上満足していたので、その反応にモモもいささか困惑する。
「ああ、いや。衣装はいいんじゃねぇの。でも髪は随分ひっつめられたなぁと思ってさ」
あの後ニーナは櫛と髪留めを取りに行き、モモの垂らした髪を後ろ上方でお団子に結い上げたのだ。
「に、似合わないですか? この方が舞うのに邪魔にならないだろうって、ニーナさんが」
これなら更に「やりやすい」。モモは益々今日の演舞に自信をみなぎらせていたのだが。
「別に~お前が気に入ってるなら、それでいいだろ」
──相変わらずつれないなぁ……。
そうは思いながらも、確かに自分は満足したのだから、これで行こうと気持ちを改めた。
──何やかんや、友達作ってんだな。
颯爽と支柱に向かうモモのお団子頭を見つめて、凪徒はクスッと笑ってみせた。
今から約二時間後──披露される二人の晴れやかな舞台。
その最終調整が始まった──。
★次回更新予定は一月二十一日です。




