[38]バレた過去とバラせない未来 〈N♪〉
★以降は2014~15年に連載していた際の前書きです。
拙作全てに目を通してくださっている有難き読者作家様ランプライト様より、以前戴きました『ムキムキセクシー』凪徒のイラストをこちらに置かせていただきます☆
冒頭に準備運動を終えた凪徒君が登場するものですから・・・とはいえ上半身裸ではないとは思われますが(笑)。
余りにセクシー過ぎて目のやり場に困る程ですが、是非ご堪能くださいませ!
それでは冬編最大! かも知れない? 驚きの(でもないかも知れない(苦笑))三十八話をどうぞお楽しみください!!
朧 月夜 拝
翌朝のモモは前日と違い早起きだった。こちらに来てもそれなりに続けてはいたが、今朝は特別念入りに、ストレッチや部屋で出来る運動を行なう。多少の鈍りは否めないが、連日歩いていたお陰で脚の具合は悪くはない。あとは腕力と握力の調整だが、それも洗面所へ続く廊下の仕切りに指を掛け、ある程度のぶら下がり上下運動はこなすことが出来ていた。
「あ、また、朝食が~って、先輩に言われちゃう!」
慌てて支度をし、隣の部屋をノックする。凪徒も今日のショーの為に早朝の運動を終えたところらしく、うっすらと額に汗を滲ませていた。
「今夜は椿さんの所へ泊まるんだよな? モモ」
凪徒がパンをほおばりながら、スープを口にするモモに尋ねた。
「あ、はい。何だか、あんなに素敵なお部屋を空けてしまうなんて申し訳ないのですが……」
杏奈に気の引ける想いがしながら、それでもやはり一秒でも長く、母親の傍にいたいと願った上での選択だった。
「んなこと気にすんなよ、杏奈だって母親になるんだ。それくらい分かってる」
「はい……杏奈さんの赤ちゃんに、沢山お土産買っていきます。あ、夫人にも!」
──それにあの先輩の酔っ払い騒動から守ってくれた、ピン留めを作ってくれた秀成君とリンちゃんにも一杯。あ、送ってくれた暮さんと、もちろん団長と……いえ、全員に買わないとえこひいきよね?
「先輩、あたし幾つマトリョーシカを買わないといけないんでしょうか?」
モモはいきなり現れた帰国への現実に、団員の数が分からなくなった。
「お前、ロシア土産を全部マトリョーシカにするつもりか!?」
「え? 他に何があるんですか?」
「そりゃあ、ウォッカとかウォッカとか……ウォッカ、とか?」
「先輩もおかしいと思いますけど……」
二人は顔を見合せて吹き出した。と同時にモモの全身を切ない気持ちが駆け巡る。ずっと二人きりではなかったものの、こうして三年間凪徒と寝食を共にしてきたのだ。それも残り幾日あるのか──表情には出してはいけない感情を、今は忘れようと努めることしか出来なかった。
「あ、そう言えば……リンちゃん、退院したでしょうか?」
先程思い出したメンバーを反芻して、モモは凪徒に問い掛けた。モモの携帯電話は海外対応でないので、メールも電話も出来ずに今に至る。
「ああ、そうだな。公演中でも秀成なら出られるだろ、掛けてみるか?」
と凪徒が早速自分のスマートフォンを手に取り、やがてコソコソとした声で秀成が応答した。
「あ、秀成? 凪徒だけど、リンは退院したか?」
『凪徒さん……は、はい、母子共に無事でした! あっ──』
「ぼ、母子とか……言ったか、お前……」
「え?」
電話の向こうの秀成の答えに、凪徒は鬼の形相を見せた。もちろんその姿は秀成には見えていないのだが、明らかに怯えているのが、聞こえなくともモモには感じられた。
「おっ前……自分が何やらかしたか分かってるんだろうなぁ!?」
『ひっ、ひ~! わ、分かってます! ちゃんと真っ当に立派な父親になります!!』(註1)
──秀成君とリンちゃんが、パパとママに……?
モモは驚きながらも心底嬉しく思った。そしてベビー用のお土産をもう一点増やさなければと。
「まず『約束』を破ったこと。盲腸だと嘘ついたこと。最後に、テント内に携帯持ち込んだこと。以上三点のデコピン、帰国後確定だ! 覚悟しとけよっ!」
──『約束』?
モモは凪徒の怒りにまみれた言葉の初めに引っ掛かったが、
『凪徒さんが、ロシア滞在中はいつでも連絡取れるようにしとけって言ったんじゃないですか~! ……で、でも、デコピンは受けて立ちます! 僕も父親ですから!!』
微かにモモにも聞こえる秀成の真っ直ぐな声に、モモも凪徒も、秀成の決意の強さを感じ取った。
「んじゃ、俺は月曜には帰るから。団長には改めて連絡する。リンを幸せにするんだぞ! おめでとうな!!」
凪徒はぶっきら棒だが熱い祝福の言葉を投げて、モモに電話に出ろと携帯を渡した。モモも弾む声で「おめでとうございます!」と告げ、秀成は照れながらも、夫人と同じ妊娠三ヶ月だとの報告をして会話は終了となった。
「まったく……何なんだ、ベビーラッシュか?」
「先輩……『俺は月曜には』って何ですか? あたしも、ですよね?」
苦々しい顔をして頬杖を突いた凪徒に、モモは後の方の『引っ掛かり』をまず問い質した。
「ああ……お前はもう少し残れ。まだ帰国便は変えられる」
凪徒は簡潔に答えて、再び食事の続きを始めてしまう。椿との時間を少しでも──そんな厚意がモモには痛いほど感じられた。けれど──
「いえ! いいんです。あたしも先輩と帰ります! そうしないと間に合わなくなっちゃう」
余り『クライアント』を待たせてしまったら、施設移転費用立て替えの件も心変わりをされかねない──モモは少しずつ現実逃避していた悩みの素に心配が募っていた。
「それと『約束』ってなんですか?」
「あ~……んじゃ、今モモが言った、何が『間に合わなくなる』のか教えたら、俺も教えてやる」
「えぇ……」
明らかに不可能な交換条件に、モモはつい閉口してしまった。
「まぁ、その内分かるって」
──あたしの方のも、その内分かります……。
口には出来ない理由と未来に、モモの表情は一瞬色を失った──。
[註1]中国女性との結婚:中国で結婚するなら二十歳を越えてからになりますが、日本国内で結婚する場合は、日本人の結婚年齢が適用されるそうなので、十七歳のリンも結婚出来るということになります。
★次回更新予定は一月十五日です。




