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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[23]カイロと回路

 凪徒の向こうに見える歩道を歩く人波が、こちらに目を向けては冷やかしの口笛を鳴らしたり、ギョッとした顔で過ぎていった。


「せ、先輩!? あ、圧死する~~~! 凍死する~~~!!」


 モモは雪と凪徒の狭間(はざま)で身動きが取れなくなりながらも、必死に叫んでみたが、


「圧死はともかく、凍死はねぇだろ~? だって……こんなにあったかい……カイロがある……」


 雪に突っ伏しながら答えた凪徒の返事に、一瞬驚き固まった。


 ──そ、それは、あたしの赤面している『ほっぺ』ですから~!!


 確かに凪徒の左掌はモモの右の頬を包んでいて、その頬は()れたように赤らみ、熱を発していた。


「俺……初めて……酔ったかも……。気持ち、いいもん、だな……」


 そうしてやや向こうを向いていた凪徒の顔が、モモの方へ返された。余りに近い距離のニヤけた寝顔に、モモは再び抵抗する力が抜けてしまった。


 ──あ、あたし……もし……このまま『事故』でキスしちゃっても、先輩だったら嫌じゃないんだろうか……?


 ふとそんな疑問がよぎる。


「さ、むい……ねむ、い……」


 都会のど真ん中の街角で、雪山遭難でもしているかのような台詞(セリフ)を吐き出し、目を閉じたままの凪徒の顔が、『モモのほっぺ(カイロ)』の温かさを求めて近付いてきた。モモは思わずのけぞったが、右頬を覆う掌に邪魔されて全く逃げ場がない。


「うっ」


 ──先輩の息で、こっちまで酔っちゃいそうだ……。


 香るウォッカにモモは顔をしかめた。


 ──や、やっぱり、やだっ! こんなにお酒臭くて、先輩の記憶にも残らないファースト・キスなんて~っ!!


 と、その時──。




『凪徒くん、凪徒くん、今すぐモモから離れなさい』




「え?」


 ──団長!?


 何処からか団長の声が聞こえ、凪徒の行為を(いさ)めたのだ。


「団長~? まっさかなぁ……此処はロシア! モスクワだぞ~? 第一、俺はモモになんて……俺が触れてるのは、カイ──」


 ──ひゃあああっ!!


 益々近付く凪徒の(おもて)。すると更に、




『えー、凪徒さん、凪徒さん、モモからすぐに離れてください』




「秀成君?」


 今度は秀成の声が、モモと凪徒の間から聞こえてきた。


 ──これって、もしかして……?


「あぁ!? 秀成~? 俺に命令する前に、お前のやるべきこと、ちゃんとやれっての!」


 ──酔ってる割には、ちゃんと返事するんだなぁ……。


 モモは冷静に凪徒の様子を観察するも、凪徒がモモの上から退()くことはなく途方に暮れた。


 そして極めつけの三発目は──。




『くぉらぁぁぁ!! 凪徒ぉぉぉっ!! モモからどけって言ってんだよっ!!』




 ──く……暮さん……?


「あっ!? ……暮っ?」


 ドスの効いた暮の怒鳴り声が、やっと凪徒の意識を覚醒させ、ビクンと顔を上げたかと思うや否や、一気に起き上がり直立した。


「あ? モモ? 何やってんだ、お前」

「な、何って~~~!」


 途端正気を取り戻した凪徒が呆れたように、雪山にめり込んだモモを見下ろして声を掛けた。


「まったく、こんな所ですっ転んだのか~? ほれっ」


 モモの手首を引っ張り起こした時には、既に凪徒はいつも通りだった。


「お、お早いご帰還ですねっ」

「ゴキカン? 何だそれ。ほら行くぞ」

「はい……」


 (きびす)を返して歩き出す凪徒に、モモも慌てて後ろをついて行く。


 ──団長達の声、きっとこのピン留めからだ……。録音なのかな? もしかしてアルコールを含んだ呼気に反応する──?


 だからこそリンはあんなに肌身離さず着けるよう強要したのだと、モモは改めて納得した。更に機器であることから入浴時には外すことと、就寝時にも近くに置くようにと。


 ──それって、先輩がさすがにウォッカなら酔うと思ったから? ……ううん、もしかして、先輩は記憶がないだけで、以前にも酔ったことがある?


 モモはサーカスメンバーの用意周到さと、凪徒の「突然過ぎ」()つ「異様に短い」酔っ払い振りに、苦笑いを浮かべながら感心した──。 




★次回更新予定は十一月三十日です。

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