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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[22]つれない相手と釣れたモモ

 翌日午後。二人は遅めの昼食を、ホテルからも近いトレチャコフ美術館傍の居酒屋「グラーブリ」にて堪能していた……が──。


「先輩、あの……昼間からちょっと呑み過ぎなのでは……?」


 モモは目の前でウォッカをあおるように飲み干す凪徒に困惑していた。


「まったく! これが呑まずにいられるかよっ、どいつもこいつも~!!」


 ──あたしは呑まずに、というか呑めないんですけど……。


 と言いたいところだが、そんなことを言ったら最後、クドクドとお説教されそうなので、ぐっと言葉を呑み込んで食事を続ける。


 グラーブリはグリーンを基調とした内装が爽やかな、ビュッフェスタイルのレストランだ。味見も出来るし一品の価格も手頃なので、ロシア観光初心者には親切であるが、日本のようにどれだけ食べても一律という訳ではないので、多少の計算が必要なのはご愛敬。モモはおかわりをするほど初めてのボルシチが気に入った。


 モスクワ滞在二日目のこの日は、ホテルでの朝食を早々に終わらせ、地下鉄一号線で数駅の日本大使館に早速(おもむ)いていた。が、「個人情報は明かせません」の一点張りで、椿との血の繋がりを証明する何かが提示出来なければ何も教えられないと、門前払い状態で(ほとん)ど取り合ってもらえなかった。残念ながらモモは母親の手掛かりを一切持たないのだ。諦めて立ち去るしか他なかった。


 それから凪徒は或る(ひらめ)きが頭に浮かんで、携帯から日本に電話を掛けた。相手は音響照明係でパソコンおたくの秀成。秀成はすぐに応答したが、


「あ~秀成? 悪いが頼みがあるんだけど……」

『凪徒さんっ!? す……すみませんっ! ちょっと立て込んでて……』


 秀成の声は慌てている上に何やらうわずっていた。


「……どうかしたのか?」


 電話の向こうから、秀成の息継ぎとドタバタ走る足音が聞こえる。


『え、ええぇとっ……ちょっと、リンが……』

「リンがどうした?」


 凪徒の驚き問い掛ける声に、隣で通話の終わるのを静かに待っていたモモもハッと顔を上げた。


『え~えと……もっ、盲腸で入院することになって……』

「盲腸!? 大丈夫なのか?」

『は、はい! だいじょぶですっ、あの~これから入院の手続きしなきゃなんで、すみません!!』

「あ、ひでなっ──切りやがった……」


 という訳で、『日本大使館にハッキングを掛けろ』という凪徒の無謀な依頼は却下され、役に立たない大使館と秀成、更に何も思い浮かばない自分に腹の立ったままの凪徒……と、自分の為に腹を立ててくれている凪徒に、至らない自分をひたすら憂うモモが、こうして顔を突き合わせ、ランチを頂いているといった顛末(てんまつ)なのであった。


「あの、先輩。食事を終えたら一度ホテルに戻りませんか?」

「ん? ああ、そうだな。やみくもに探しても見つかるような話じゃねぇし」


 それを聞いたモモは、キウィフルーツのたっぷり乗ったケーキを頂き、凪徒もついにグラスをテーブルに置いた。会計を済ませ、雲が影を落とす真っ白な通りへ歩み出る。


 モスクワの屋内は何処(どこ)も暖かいが、二月下旬のこの時期は最高気温でさえも氷点下だ。お陰で雪も溶けない為サラサラとして歩き易いが、歩道の脇に積み上げられた雪の山の手前を歩いていたモモは、突然大きな何かが()し掛かってきて、その雪山の斜面に押し倒された形になった。




 ──え……? え? えっ! え──っ!?




 斜め四十五度にあおむけにされたモモの上に覆い被さっていたのは、(まぎ)れもなく『酔ったことのない』凪徒だった──。




★次回更新予定は十一月二十七日です。

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