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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[20]お酒と理由 〈K♪〉

「先輩って……どうしてお酒飲むんですか?」


 まもなく二桁に差し掛かりそうなおかわりの回数を数えて、さすがに(いさ)めてみようかと思い立ったモモは、少し消極気味に凪徒へ質問をした。


「どうしてって……? ……酔うと心地良くなるからか?」


 凪徒は飲み干したグラスをテーブルに置き、モモの方へ顔を向けたが、特に理由が見当たらず、視線は(くう)へと上げられた。


「先輩の酔ったところ、見たことがない気がするんですが……」


 ──俺もそんな覚えないな……。


 モモの指摘に、心の中で思わず苦笑いをする。


「ほ、ほら、ストレス解消だな、きっと!」

「酔わないのにですか?」

「うーん……」


 再び突っ込まれた凪徒は腕を組んで(うな)ってしまった。──俺、確かに何で飲んでるんだ?


「……まぁ雰囲気だろ、こんなもん」


 そしてふと、この旅行に一つの目標が思いついた。──ウォッカの本場ロシアとなれば、さすがの俺でも酔えるかもしれない!?


「あたしもあと二年ちょっとで飲めるようになるんですよね! 美味しいって思うのかなぁ?」


 その時、凪徒は昨秋の慰安旅行で起きた『日本酒事件』を思い出し、途端に慌て出した。(Special.1をご参照ください)


「お、お前はやめとけ! 酒になんか呑まれてもロクなことないぞ!!」


 ──またデコピン喰らわされそうになったら、たまったもんじゃない……。


「? ……はい」


 モモは焦る凪徒に疑問だらけの大きな瞳を注いだが、凪徒の口元が益々ヘの字になったので、とりあえずは分からないまま返事をした。


「子供はもう寝る時間だぞー、着いたら全く手掛かりのない母さん探しが始まるんだ、良い子は早く寝とけよ~」


 ガシガシと脳天の髪を掻き乱され、モモは「子供扱いして~」と不服そうに髪を直し、ブランケットを鼻先まで上げて(まぶた)を閉じた。


 ──あたしのお母さん……本当に見つかるのかな。見つかったら……あたしを歓迎してくれるだろうか?


 モモはまだ見ぬ母親のシルエットを思い浮かべながら、お腹の中で聞いた筈の子守唄を、(かす)かな記憶から手繰(たぐ)り、探し出そうと夢の中へ落ちた──。




 ☆ ☆ ☆




「き、綺麗な夜景ですねっ……」


 食事を終えた暮と茉柚子は、高層のシティホテル最上階バーにいた。煌めく景色を眼下に見下ろす窓際のカウンターに並んでいた。


「気に入っていただけて良かったです」


 暮は本来、レストランでお茶でも飲みながらのお喋りが終われば、茉柚子を送ってサーカスに戻る予定だった。が、茉柚子が「お酒は飲めますか?」と尋ね、「知人が会員証を持っていて」と借りてきたカードを見せた為、泊まらずともこうしてお洒落なバーにて、鮮やかなカクテルなんぞを傾けているのだが──。


 ──まさか一度目のデートで、誘われてる訳じゃあないよな?


 階下がホテルだと思うと、ついそんな都合の良い想像をしてしまう。


 ──何で明日が移動日なんだよぉ!!


 折角お近付きになれたというのに、明日はもう別の街だ。実際二人が遭遇したのは先週の日曜だが、お互い同時に時間の取れる夜がなく、街を離れる前夜の今日まで会うことが叶わなかった。


「何だか……少し酔ってしまったかも……」


 三杯目の空いたグラスをカタンと鳴らし、転がったライムがその中を舞った。茉柚子は(ほの)かに()だるい声で、暮の左肩に頬を預けた。


「だ、大丈夫ですか、早野さん? あのっ、そろそろ送りますよ!」


 暮は硬直する身体を何とか動かし、茉柚子の方へ顔を向けようとしたが、余りの近さと香るフレグランスに、躊躇(ちゅうちょ)して真正面へ言葉を投げた。


「早野なんて……他人行儀ですね……。茉柚子って呼んでください……私も「純一さん」で良いかしら……?」


 茉柚子の右手が暮の左太(もも)に乗せられる。


「茉柚子さん」


 暮は一度深く息を吸い込み、そして吐き出した。いつになく落ち着いた低い声で彼女の名を呼んだ。


「はい……」


 温かな暮の掌がそっと、茉柚子の置いた手の甲を包み込む。


「貴女をタクシーでご自宅までお送りします。でもその前に貴女の事情をお聞かせ願いたい。……『俺』を味方につけたい、何か理由があるんでしょ?」

「え……?」


 茉柚子は刹那身を起こして、酔いの醒めきった切ない表情を暮に合わせた。




「だって……貴女の手、こんなに震えている」




 同じ表情をした暮が、彼女の震えを止めようと強く握り締めたまま、微かに笑みを(たた)えて見つめていた。瞬間、解放される隠しきれない想い。


「ご、めん……なさい──」


 茉柚子の(おび)えた(まなこ)から一粒の涙が(こぼ)れ、暮はモモが貸したハンカチの経緯を知ることとなった──。




挿絵(By みてみん)




★以降は2014~15年に連載していた際の後書きです。


 いつもお読みくださいまして誠にありがとうございます!


 今話文末にて長緒 鬼無里様より頂戴致しました、『優しい暮』のイラストをご紹介させていただきました♪


 シチュエーションとしましては、カフェでモモの相談を聞いてあげているところだそうです☆


 実際には此処まで二枚目だとは思えないのですが(笑)、彼の内面を外見に表してくださいまして、まさしく今話の暮にふさわしいイラストだと思い、掲載させていただいた次第です♡


 鬼無里様、改めまして本当に有難うございました! シャープペン画仲間でございますのに(笑)、こんなに彩り溢れる温かな作品、私にはもったいないくらいです!!


 お読みくださっている皆々様、これからも暮と珠園サーカスをどうぞ宜しくお願い致します!!



   2014年12月12日 朧 月夜 拝




★次回更新予定は十一月二十二日です。




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