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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[16]暮と茉柚子

「モモ! モ~モ!!」


 翌日、朝食後。


 モモはキッチンカーにトレイを返し、自分の寝台車に戻る途中、先に食事を済ませて出ていった暮の(ひそ)めた声に呼び止められた。


「え? 暮さん?」


 辺りを見回すが暮の姿は見えない。再び「こっち、こっち!」と斜め右から聞こえ、プレハブの角から微かに見える影が手招きしていた。


「どうしたんですか?」


 駆け寄り尋ねるモモ。


「しーっ! 周りに誰もいないか?」

「はい……」


 モモを背後に回し今一度辺りを見回して、暮は茉柚子から預かった紙包みを手渡した。


「は、早野 茉柚子さんからだっ」

「え? 茉柚子さんから?」


 急いで中身を確認すると、園を訪ねた際、涙した茉柚子に差し出したハンカチだった。


「ハンカチ……?」


 暮もまた、どうして茉柚子がモモからハンカチなどを借りたのだろうと小首を(かし)げる。


「これ、どうして暮さんが?」

「あ、ああ。昨夜の見回り中に遭遇して、モモは来客中だったから預かったんだ」

「そうでしたか……ありがとうございます。あ、あの、茉柚子さん、何か言ってましたか?」


 此処数日ひとまず忘れようと努めていた『引き延ばしている返事』の一件を、心の奥底から拾い上げる。そうしてモモは少しだけ暮に焦りを見せた。


「いや? 別に……?」


 暮は昨夜の一通りを思い出したが、これといって覚えはなく、代わりに茉柚子の花のある微笑みが脳裏に浮かび赤面した。


「モ、モモ、あの、あのさ~早野 茉柚子さんて歳幾つだ?」

「え? えーと……三十二歳、だったかと」


 ──うわっ、俺とちょうど釣り合う年齢じゃね!?


 暮、再び心の中でのガッツポーズ。ちなみにこの時、暮、三十六歳。


「苗字が早野ってことは独身なのかな~? なんて……」

「はい……そうですけど、それが何か?」


 ──モモ、鈍感過ぎないか?


 暮は内心そう思いながらも、三度目のガッツポーズをした。


「それでさ、モモ……彼氏がいるとか恋人募集中だとか──」

「暮? モモ! そんな所で何やってんだ~練習するぞっ」


 核心に触れようとした矢先、凪徒の大声が暮の恐る恐るな小声を打ち消した。モモは咄嗟(とっさ)に振り向いて、凪徒に「はーい!」と叫び返す。


「あ、すみません、暮さん。えっと……何でしたっけ?」

「い、いや、だいじょぶだいじょぶ~」


 今にも駆け出したそうなモモの顔に苦笑いを返し、「茉柚子さんにはお礼を言っておきますね!」と言いながら走り去るモモの背中に、しばらく切なく手を振っていた──。




★次回更新予定は十一月十日です。

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