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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.3:冬】触れられた頬 ―○○○より愛を込めて―
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[10]標的と思惑

 茉柚子のお願いに何も返せず、モモは驚きの表情を元に戻すまで、数十秒は掛かってしまった。


「あの……」


 やっと口から(こぼ)れた言葉が、次第に身体をほぐしていく。


「助けるって……あたしが戻ることで……?」


 空中ブランコ以外に能のない自分が、どうしたら此処の役に立つのか? 本来であれば自分が()く筈だった園長の補佐はもう茉柚子がやっている。──それなのに、何故?


「さっき話した劇場のことなんだけど……」


 茉柚子はやっと話を始めたが、その言い出しは質問した答えに程遠そうに思えた。


「知ってる? 最近海外で流行っているサーカスを源流としたエンターテイメント。一つのストーリーを様々な歌や踊りや技で作り上げた……日本でも時々巡回公演されているでしょ?」

「はい……」


 モモも同業の端くれとして注目はしていた。が、テレビのドキュメンタリーやCMで知る程度だ。


「此処に建つ劇場で常設公演されるのよ。もちろん(ほとん)どは元から勤めているメンバーで構成されるらしいのだけど、三割程は募集を掛けるのだそう。其処にね……モモ、是非貴女が欲しいって、劇団のプロデューサーが」

「え!?」


 ──あ、あたしを!?


「貴女に直接話が行かないで、こちらに声が掛けられた事自体、もう卑怯な申し出であるのは分かっているの……でも、向こうはチャンスをくれた気でいるのよ……貴女の今後と、私達施設の今後──貴女が承諾してくれたら、此処の移設費用を全て請け負ってくれると言っているの。正直……立ち退()く費用なんてないのよ……経営はギリギリ綱渡り……ね、モモ、どう? 常設なら今までのような移動の負担もないし、子供達にも時々会えるわ。今いる昔ながらのサーカスより、ずっと華やかな世界よ。これは貴女にとっても悪い話ではないと思うの。ね?」

「……」


 茉柚子は後半モモの気を惹こうと、常設公演のメリットや人気の劇団であることを引き合いに出した。が、モモにはもはや茉柚子が何を言っているのか分からなかった。自分が珠園サーカスを辞めることになるなんて……夏の凪徒の失踪事件以来、全く考えたことなどなかったのだ。


 ──どうしてこんなあたしを欲しいだなんて……?


 世界的に話題沸騰の劇団なのだ。団員を募れば、有名な体操選手やパフォーマーが呼ばなくとも集まる筈。それでも自分を欲しいと言うのならば、(じか)にスカウトに来た方がよっぽど負担がない。もちろんモモの気持ちの中には、一パーセントすら引き抜きに応じる意思などないのだが。


「あ、あの……少し、考えさせてください……」


 モモはその言葉と共に立ち上がり、一礼をして上着を手に取った。


 気が付かない内に、まるで逃げるかの如く、施設を後にする自分がいた──。




 ☆ ☆ ☆




 モモはいつの間にかバス停に立ち尽くし、いつの間にかバスに乗って、いつの間にかサーカスの最寄りで降りていた。敷地の入口で立ち止まる。ぼおっとした顔がテントを見上げ、頭が真っ白なまま再び(うつむ)いた。


 コートのポケットにしまわれた携帯が勢い良く震えて、一瞬心臓が飛び出しそうなほど驚いた。が、やっと正気に戻り、画面を確認しないまま応答した。


「も……もしもし」

「モモ? ……洸騎だけど」

「洸ちゃん……」


 今になってみれば未だ先日の抱き締められた事件の方が、今日の驚愕な依頼よりも対処が出来た気持ちがした。


「来たって聞いたよ。何で僕が帰る前に帰っちゃったの?」

「ごめん……」


 それきり押し黙ってしまう。洸騎もモモの消沈振りに気が付いたのか、少し声色(こわいろ)を明るくして続きを告げた。


「サーカスの傍にファミレスあるだろ? すぐ行くからさ、其処で待ってて。夕食ご馳走するよ」

「え? あ、あの、でも──」


 続きを話す前に切られてしまう。モモは仕方なく振り返り、洸騎の示したファミレスへ足を進めた──。




★以降は2014~15年に連載していた際の後書きです、、、が、今も同じ気持ちでございます(*^_^*)


 いつもお読みくださり誠に有難うございます!


 今話で通算百話目となりました♪(あの夏編初期のサーカス・メンバー紹介も含みますが(笑))


 全て書き切っているのですから、定期更新出来ていて当たり前なのかも知れませんが、色々と(くじ)け、もう辞めようか・・・と思う事も無きにしも(あら)ず、の毎日です(苦笑)。


 それでも続けていられますのは、皆様の温かい励ましのお陰でございます*


 相変わらず未熟者の作者ではございますが、今後も懲りずに拙作とお付き合いくださいませ!


 後書きまでお読みくださいまして、本当に有難うございました!!




★次回更新予定は十月二十二日です。




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