#.01
「リーリツェリア様。ベルトーラルの祝福は得られましたでしょうか?」
「えぇ。ベルトーラルに招かれて祝福を頂きました。」
わたくしはリーリツェリア。ヴォルディガント・ロウネ__ヴォルディガントの領主__とその第一夫人、ミュリエアナの次女です。
「さぁ、リーリツェリア様。お召換えを致しましょう。」
筆頭側仕えのレティーシエラに促されて鏡の前に立つとレティーシエラとクリスターナによってどんどん着付けがされていきます。
領主の子ということで衣装は布をたっぷりと使った高級品。仕上げに半分だけ銀色の髪をハーフアップにし、ロウネであるお父様からお姉様と揃いで賜った蝶があしらわれている金の髪飾りを付けるといつも通りの姿です。鏡を見ると自身の濃い青から薄い青緑のグラデーションがかった瞳が見返してきます。
護衛騎士のドロッセル、リディオラント、側仕えのレティーシエラとクリスターナを伴い、食堂に向かいます。まだ聖フィリエアツィア貴族学院…通称貴族学院の入学前の、お披露目前なので側近を付けることがそこまで出来ないのです。
貴族学院というのは学校のこと。貴族が10歳になったらクラッルシャーンの季節(夏の終わり〜秋)からヴォルディガントの季節(冬)の終わりまでのふた季節だけ通い、成人まで学びます。
貴族学院入学前にお披露目式という儀式を行い、やっと貴族と認められます。
今は貴族学院から学生が帰ってくる水の女神、プレクティファーの季節。つい昨日、貴族学院に通う双子の姉弟…姉のフォニアーナお姉様と兄のヴェルギードお兄様、そして第2夫人ナーヒェラッテ様の娘で異母姉のディーファフェステお姉様、フェンスタンテお姉様が帰領してきました。
「リーリツェリア、ベルトーラルの祝福を頂けた用でなによりですわ。」
「まぁ…フォニイお姉様。ありがとう存じます。お姉様もベルトーラルの祝福を受けられたようで喜ばしく存じますわ。」
「あぁ、2人ともいたのか。」
「ヴィルお兄様!ベルトーラルの祝福を頂けたようで何よりです。」
「ヴィル、ベルトーラルに祝福を頂けたようね。」
「あぁ、其方達もな。」
回廊にてフォニイお姉様とヴィルお兄様に会いました。お姉様も白金の御髪に蝶の髪飾りをつけていらっしゃいます。
ベルトーラルというのは時の女神の眷属神で夢の神と言われており、就寝の挨拶は「ベルトーラルの祝福を頂けますように。」や「ベルトーラルの祝福を得られますようお祈り申し上げます。」など。起床の挨拶は「ベルトーラルの祝福を頂けたようで何よりです。」や「ベルトーラルの祝福を頂けたようね。」などとして使います。
そうこうしているうちに食堂に着きます。既に第2夫人ナーヒェラッテ様、第3夫人のロジアセーラ様、ディーファお姉様とフェンテお姉様、異母妹、第3夫人の娘ルーディエラが揃っていました。
「皆様ベルトーラルの祝福を頂けたようで何よりです。」
「あなた達もね。」
人数が多いためフェルお兄様と第2夫人が会話をします。席に着くとお父様がお母様をエスコートして入ってきました。
「ロウネ、ミュリエアナ様、ベルトーラルの祝福を頂けたようで喜ばしく存じます。」
「其方達も頂けたようだな。」
お父様と第2夫人が会話をし、お父様とお母様が席に着かれます。上座からお父様、お母様、第2夫人、第3夫人、フェルお兄様、フォニイお姉様、わたくし、ディーファお姉様、フェンテお姉様、ルーディエラとなっておりルーディエラは末席の上、向かいに人がいない状況となります。
「あぁ、そういえばリーリツェリア、奉納式はどうなったのかしら?」
「恙無く終わりましたわ。あとは返納式を待つのみです。」
「そうなの。今年の収穫が楽しみね」
「ディーファフェステ!神宮のお話なんて汚らわしいわ。淑女たるもの…」
神宮…それは貴族として生きられない者、つまり家の格に合わない神力しか持っていない者や、貴族学院を卒業できず、貴族と認められない者が居る場所です。同時に様々な神事を行う場でもあります。わたくしは物心着いた時にはそこにいました。貴族としての瑕疵を付ける為に……。いえ、そこは良いでしょう。そのため、第2夫人には嫌われているのです。
「ナーヒェラッテ様、お耳汚しを失礼いたしました。ディーファお姉様にも失礼いたしましたわ。」
角をたてぬよう貴族らしからないですが謝ります。これで穏便に済めば良いのですが……
「…。」
「えぇ。わたくしこそ申し訳なく存じますわ。」
ディーファお姉様が謝ったことで第2夫人は何も言えないようです。
「そうだわ、姉妹が揃ったのだし姉妹のお茶会を致しましょう。どうかしら?」
重くなった空気を覆すようにフェンテお姉様がお茶会に誘ってくださいました。ディーファお姉様とフェンテお姉様に心の中で感謝しつつ、
「いいですわね、フェンテお姉様。いかがでしょう?フォニイお姉様、ディーファお姉様」
とお姉様お2人を誘います。
「えぇ。もちろんよ。」
「そうね。よいわ。」
「わたくしも宜しくてよ。」
最後の主の言葉により、周りにいる側近を含めた空気が固まります。ルーディエラです。この食卓に着く者の中で1番身分が低いというのに誰よりも上から目線なのです。わたくしはお姉様お2人を名指しで誘ったのにも関わらず招待されて当たり前という態度に目を見張りました。最も感情を表に出すのは貴族として有るまじきことなので直ぐに取り繕いますが。
「そうね。姉妹のお茶会をするのですもの。ルーディエラもいらっしゃい。いいわよね?ディーファ、フェンテ、リーツェ。」
「ええ。もちろんよ。5人でお茶会を致しましょう?」
「はい。」
「問題ありませんわ。」
姉妹5人の中で1番身分が高いフォニイお姉様がそう言う事でルーディエラをお茶会に招待することが決まりました。お父様もお母様も第2夫人も第3夫人もヴィルお兄様も聞いてはいますし、ルーディエラの態度を良くは思っていないと思いますが何も仰るつもりは無いようです。ロウネカンディダート(領主候補生)ではあるものの、お父様達の中ではロウネの候補でもないルーディエラの言動など些細な事なのでございましょう。ルーディエラの居るお茶会。それだけで楽しみだったお姉様達とのお茶会が憂鬱なものになりました。