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第8話

 10月27日ぶん

 短編用の話題が見つからない。

 短く2000~3000字程度で終わらせることが出来て、いくつか話をひねり出せるものだったらいいのだが……。

 いつも通りの朝。

 夏場であっても早朝は涼しく、ランニングするにはちょうどいい。まだ薄暗い時間帯に起きて、外を駆ける。アスファルトを蹴る度足に何かが絡みつくような感覚に襲われ、いつもより短い距離で息が上がった。

 汗はかいていない。体調もすこぶるいいはずだ。でも、体が重く走ってもいつもの爽快感が現れなかった。


 部室を経由せず、走り終わった後は通り寮の部屋に帰る。

 ドアには何もかかっていなかった。開ければ、自分が散らかした部屋が出迎える。昨日一度家に帰って、資料を漁ったり自学をしたりしたままの部屋。床には紙が散乱し、部屋の隅に設置していたはずのベッドの上にはパソコンやら本やらが山積みにされ、人が暮らせるような部屋ではないことが伺える。

 僕の部屋本来の姿ということだ。


 今日のぶんの教材で忘れていたものを手に取り、部室へ向かう。

 バッグは部室へ置いてきていた。部室に入れば案の定誰もいない。朝からここを使う奇特な人間なんて、ここを寝床に使っている僕ぐらいか、大会前の追い込み期間中の設計班と工作班ぐらいだ。

 財布の中身を確認する。今までだったら多少の余裕があった財布の中身も度重なる出費で寒くなっていた。


 部室を出れば、いつも通りの誰もが夏の朝と認める日差しが照り付け肌を焼く感覚が襲ってくる。

 大学へと続く道には人が点在し、早朝の時間とは異なり賑わいを見せていた。そんな群衆の中にふと、目を惹く人物を発見する。松葉杖を持ってはいないが、僅かに足を引きずるように歩く先輩の姿だった。



「よう」

「おはようございます」

「お前、また籠ってたのかよ」

「ちょっと、部屋が住みにくいもんで」



 片手を挙げながら短く挨拶をしてきた先輩は、呆れたような顔をして話しかけてきた。というか、呆れているのだろう。最初の頃は驚いたような顔を向けていたけど、何日も続けば人は段々慣れていくもので、自分が部室から出てくるのはサークルの人であれば見慣れた光景となっている。そのため、最終的には呆れたような視線を送ってくるようになるのだ。

 僕の返事に何か考えることでもあったのだろうか。先輩は右手で拳を作ると額に当てて思考を始めた。



「あー、なんか喧嘩したりしたのか?」

「喧嘩、ですか?」

「ん? いや、お前と柚葉ちゃんって同棲してんじゃねぇの?」

「え?」

「ん?」



 まあ、その方が家賃は安くなるだろうけど……。寮は一人一部屋だ。僕が寮から通ってることはサークルに所属する際住所を書いたから認知しているものと思ったけど、違うのだろうか。



「なに、一緒に暮らしてねぇの?」

「まあ、僕たち二人とも寮住まいですし。というか、幼馴染とは言え異性ですよ。付き合ってもいないのに一緒に暮らせませんって」

「じゃあ、なんで家に帰れないんだよ。なんだ? ゴキでもでたか?」

「まあ、それが出そうなぐらい部屋が汚いというか。ベッドが本やパソコンで占領されてますし、床が紙で埋まってるので寝る場所がないんですよ」

「……。おまえってそんな奴だったの?」



 まあ、それが家に帰らない理由というわけではないけど。

 ただ単純に、運動を部室内でしすぎてそこから動きたくない、その一言に尽きる。部屋が汚いから帰らないというのは対外的な理由。ずぼらなことには変わりはないが、そう言っておかないとさっさと帰れと追い出されそうな気がするから、言葉にして出す理由はそっちにしている。

 まあ、柚葉には帰って寝ろと言われ、奇麗になった部屋に叩きこまれるのがほとんどだけど。


 そういえば、最近はメールで「たまには片付けろ」という内容の通知が届くだけで足を運ばなくなった。それに、最近は顔を合わせてすらいない気がする。



「あー、まあ、そんなことはどうでも……。よくはないんだが、この際どうでもいいんだわ。木崎さ、最近頑張りすぎだよ。少しは力抜けって。部屋でゆっくり出来ないんだったら俺の部屋に来てもいいからよ。狭いし汚いが、お前の部屋よりはましのはずだ」

「いえ、日課をこなしているだけなので頑張りすぎてるということは無いのですが」

「日課って、あれがかよ……」

「はい。手帳にその日やったことは書くようにしてるんです。見ますか?」

「……。うっわ、本当の子と書いてるんっだとしたらお前、まじもんのバカだわ。まあ、パイロットに任命された時オーバートレーニングして足故障させた俺が言えた義理じゃねえけどさ」

「先輩の足のそれはオーバートレーニングとは……」

「同じだよ、同じ」



 カバンにしまっている手帳を見せると、肩越しに覗くように流し見た後先輩は一歩引いた。人一人ぶん入りそうな空間が僕と先輩の間にできる。


 僕は昔からコツコツと増やしてきたトレーニングをやっているだけ。自分の体の限界はちゃんと把握しているし、壊れるようなことはない、と思う。

 今日みたいにいつもより疲れるようになったのはいつからだっただろう。というか、前にもあった気がするけれどいつだっけ。



「まあ、頑張り過ぎてないならいいけどさ。はあ、でもよかったわ。お前が噂に翻弄されているわけじゃなくて」

「噂、ですか?」

「ん? ああ。でもまぁ、他所の人間が言ってることだ。気にすんなよ」



 そう言って先輩は手をひらひらと振りながら正門の方へ歩いていった。


 その後ろ姿を見送っている最中。

 不意にポケットの中に入れていた携帯が振動を鈍く伝えてきた。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回


 何回もやる時間はないけど、コツコツと

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