第7話
10月26日ぶん
最終話までのつなぎが思いつかない。
また同じ現象だ。どうしたものだろう。
というか一年分の時間の流れをどうやって簡略化させたらいいのか、これが分からない。
いつも通りの時間に起床して、いつも通りに朝ご飯を作る。
料理を作る量を間違えて、タッパーに詰めて冷蔵庫に入れるのはいつもと違った。いくつかタッパーに小分けにされた状態で眠っている料理が冷蔵庫の中に散見する。
そんな様子を眺めて浅い溜息を吐き出しながら、私はいつも通り大学に行くための準備を始めた。
いつも通りの時間に家を出て、いつもと違った道を歩く。
建ち並んだ木々に朝の陽ざしを遮られながら向かう大学までの道のり。普段なら人が多く通るのにほとんど人が見当たらない所から、珍しいこともあったものだと歩みを進める。
そして、正門をくぐった辺りで見えた大きな電光時計に表示された時刻に、私は通りに人がいなかったことを悟った。
いつもとは違って、1コマ目の授業がある教室ではなく私が籍を置くコースの1年生に与えられた狭い研究室に向かう。
入学当初に案内されてからほとんど足を運ぶことが無かった場所。友人と交流するには狭すぎて、勉強するにも狭すぎて。家のコピー用紙が無くなった時とか、すぐ必要なものをコピーする時ときにだけ利用するような場所だった。
暇になった時間をそこで潰そうと、扉を開ける。日中であれば人が沢山いて狭いだろうけれど、早朝だったら誰も使っていないだろうという判断だった。
「あれ? 柚葉? どったの、こんな早い時間に?」
「そっちこそ。いつもこの時間に来てるの?」
「いんや、徹夜」
「そんな大変なレポートあったっけ?」
「ないけど、ここで徹夜したくなったから徹夜した」
目の下にうっすらと隈を作った同コース生は大きな欠伸をしながらそんなことを言った。
徹夜ってそんな感じでするものだっただろうか。自分だったら授業中に眠くなっちゃうからやりたくても出来ないな、なんて考えが浮かぶ。
彼女はだらしなく机に身を投げると、まだ日差しが当たらず冷たいままの机に頬を擦り付けて心地よさそうに薄目になった。
「で、そっちは? いつも教室にギリギリ到着する感じなのに」
「早く着きすぎちゃって」
「ふーん。今日のお弁当は?」
「お弁当?」
「いつも持ってきてるじゃん」
「え? ああ。今日は無いよ」
「ふーん」
だらけながら適当に話を振ってきては、適当な相槌を打ってくる。
興味が無いというよりは、頭が回っておらず返された答えをゆっくり咀嚼しているような様子だった。
そのまま眠りにつきそうだった彼女の目が徐に開く。いつもの三分の二程度のトロンとした目だったけど、その目は確かに私の手元をじっと眺めていた。
「何か言われたの?」
「……。何かって?」
「木崎だっけ? ほら、湖をビューンて飛行機に乗って飛ぶ大会に出た。柚葉の彼氏?」
「彼氏じゃないよ」
「そうなんだ」
「それに、何も言われてないし。これは、私がただ勝手に……」
「ふーん」
ただ勝手に……。
近所づきあい程度の軽い頼みごとを真に受けて、頑張っている祐作の手助けになればと思ってやっていたこと。私の行動は全部おせっかい、その言葉に集約されるはずだ。
だから、それが彼の重りになってしまうと思ったら、止めたって何も咎められることはないだろう。
「私みたいななんの興味もない人間の耳にも入るぐらいだから相当なんだろうけどさ。ちゃんと寝てる?」
「え?」
「あ、今お前が言うのかよって顔した……。でも鏡見てみなよ。すごい隈だよ、あんた。私の数倍酷い状態だね、それは」
そんな彼女の言葉の後、ポケットに入れていた携帯が鈍い振動を伝えてきた。
今日の筋トレ日記。
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回
寝る前の運動……。