第4話
10月23日ぶん
二作品同時に書ける人ってどんな風に思考を分けているんだろう。
短編だったらいけるだろうか?
どうかな?
暇な時間を見つけたら挑戦してみたいと思う。
僕の夢は沢山の人によって支えられている。
欲しいと思った材料を集めてきてくれた両親。
鳥を見せて欲しいと頼んだ時快く家にあげてくれた源五郎さん。
奇行を重ねても温かい目で見守ってくれた周りの人たち。
それから、いつも僕のために行動してくれた柚葉。
誰かが1人欠けていれば、僕の夢は幼少期の頃に潰えて他のものに成り代わっていただろう。
昔から鳥になりたかった。今も続く、僕にとっての不変の夢。
あの大空を羽ばたく猛禽類のように、自由に空を飛び、青く染まる空を独占したかった。
自分で翼を作った。だけど、飛べなかった。
何度も作って、作って、作って……。だけど、飛べなくて……。
学を修めた今ならどうして飛べなかったのか分かるけど、あの頃の僕はどうして飛べないのか納得することが出来なかった。
だからとても悔しくて、何度も地面を叩いたり、泣いたりして、その度柚葉に背中を摩られ慰められたのを今でも覚えている。彼女は言葉を投げてはくれなかった。だけど、あの頃の僕にとって、その傍に居てくれる行為だけがとても心強く、心の支えになっていた。
友人の誰かが飛行機があると言ってくれた。
でも、違うんだ。
友人の誰かがパラシュートがあると言ってくれた。
でも、違うんだ。
飛ぶ方法なんて、いくらでもあることはその頃の僕でも理解していた。でも、望んでいる夢とは全てがほど遠い。
周りにいた友人たちは口々に他の方法があるのにという。
だけど、飛行機はエンジンで飛ぶものだし、パラシュートは翼が無かった。
あの頃は筆舌にしにくかったもどかしい思い。それが誰にでも伝わるように口にすることが出来るようになったのは、とあるテレビ番組を見てからだった。
そこに映っていた人達は、僕が望む姿そのものだった。
形は飛行機を模している。
しかし、一つは動力なく滑空して空を飛んでいた。一つはプロペラを付けて人間の脚力だけで飛んでいた。
日本にある一番大きな湖を使った大会。鳥を目指す人間たちが集い、人の力だけで飛ぼうと挑むその姿。その日、初めて僕は眠れぬ一夜を過ごしたのだ。
それからだ。
僕は勉強に力を入れることにした。
あの場に立った人たちの仲間になるために。
僕は体力をつけることにした。
誰よりも長い時間空を飛んでいたかったから。誰よりも長い距離を飛んでいたかったから。そうすれば一番になることが出来て、そうすることでその空を独占したと思えると考えたから。
いくつかの部門に分かれるその大会の人力飛行部門で優勝することを目標にして研鑽を始めた。何度か番組を見ていくうちにその部門で一往復しか出来ないと知って、一時期身が入らなかったのは内緒だ。
そして、念願の大学に入って、僕は色々なことを背負うようになった。
「……。俺のぶんも、飛んでくれ」
涙を流しながら両手を僕の肩に置いて、絞り出すようにそう呟いてきた先輩がいた。
「あいつのことは残念だが、お前なら俺たちの想い託せるぜ!」
涙を潤ませながら、徹夜明けのやつれた顔でそう言ってきた先輩がいた。
「お前なら優勝間違いなしだな! 頼むぜ空馬鹿!!」
そんな先輩たちの想いを知ってか知らずか、同期だけになると肩を組んでそう言ってくる二歳年上の同学年の人がいた。
「お爺ちゃんもお空で応援してると思うわ。だから、頑張って」
昔、お世話になった人の葬式の終わり。帰り際を呼び止められそう言ってきた喪主がいた。
「頑張れ!」
誰かが言った。
「絶対勝ってこい!」
誰かが言った。
「応援してるから!」
誰かが言った。
子供の頃から抱いていた、今も昔も変わらない夢だった。その夢がまさに叶おうとしているのに、どうしてこんなにも心は晴れないのだろう。冷たい物言わぬ相棒となる存在を撫でる。問いかけても口も心も持たないこいつは何も返してくれない。
なんで、こんなにも体が重く感じるのだろうか。
なんで、子供の頃からあんなに楽しみにしてきた日が近づくのを辛く感じるのだろうか。
「失礼しまーす! やっぱりいた。祐作、アイス食べない? コンビニで買ってきたんだけど」
「ああ、うん。のど乾いてたし、貰おうかな?」
答えは今日も出なかった。
今日の筋トレ日記
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回
これを3セット
今までのぶんを取り返す!