第1話
10月20日ぶん
第1話からずいぶんと時間が遡った話です。
それを考慮して頂けるとありがたい……。
というか、第1話をプロローグと改題すればいいのか。
私の幼馴染である木崎祐作は変人だ。
これは小中高の同級生……、いや、同級生のみならず祐作を知っている人であれば誰もが頷く事実である。
地元にポツンと存在する丘に登っては自作の翼を手に付けてピョンピョンと飛び回り、時には自転車にプロペラを付けて街中を走り回ったり、挙句の果てにはプロペラのみならず翼までつけたりと、そんなことをやっていたものだから地元に祐作の顔を知らない人は誰もいない。
そんな彼が変人として揶揄われたりしなかったのは、紙飛行機を作るのが誰よりも上手で、折り紙で鳥を立体に作ることが出来て、頭が良かったからだろう。
祐作が作った紙飛行機は小さな子供たちや男の子に人気だ。
風が強い日でも、雨が降ってなく飛ばし方を間違えなければどこまでも飛んでいく。それはもう、手から離したら世界の裏側まで飛んでいくんじゃないかと思ってしまうぐらいに。
まあ、もちろん裏側まで飛んでいくなんてことはなく、走って取りに行ける場所ぐらいで着陸するのだが。
それでも直角に落ちず、まるで飛行機が着陸するかのように地面に落ちるのはすごいことだ。私が作った紙飛行機なんて手から離した途端に真下へ急降下するのに。
折り紙は女の子や先生達に比較的人気が高い。
卒業した今でも教室の片隅や職員室のどこかに飾られており、母校を訪ねたときの楽しみはソレが何処にあるのかを探すことだったりする。
時々減っているのは祐作がお世話になった先生に送ったものが先生の異動と共に飛んでいったからで、時々増えているのは異動した先生が帰ってきたか、祐作が母校を訪問した後かのどちらかだ。
そんなこんなで、街中で奇行をみせる祐作だったけど、周りの人たちから敬遠されることは無かった。
で、そんな12年という子供時代を経て大学生となった今はというと、相も変わらず彼は空を目指している。
小学校何年生だったか。授業参観日で将来の夢を発表する場面にて目をキラキラと輝かせながら「僕は鳥になりたい!」と大声で叫んだだけのことはある。
所属している学部は理学部数学科と空を目指すにしては少し逸れていると思われるところにいるが、夢に向けての研鑽を積んでいる場所はそこではない。サークルである。
100人余りの同志たちと共に、祐作は鳥になるべく研鑽を積んでいるようだった。
今日も変わらずサークル棟に籠って計算か翼の製作に励んでいるんだろう。帰宅するのは夜中だろうか、それとも明日の夜だろうか。
寮のベランダから見えるサークル棟の一角にはまだ明かりが一つ、消えずに残っていた。
「電話? おばさんからだ……」
夜も深まってきた頃合い。
健康的な生活を送っている人間だったら夕食を食べ終え、眠る準備をしているだろうこの時間に携帯が鳴る。
画面に表示されたのは祐作のお母さんの名前だった。
「はい、柚葉の携帯です」
『あ、ゆずちゃん? 私、裕子だけど。そこに祐作いる?』
「いや、何時だと思ってるんですか……」
『だって、電話しても出てくれないんだもの。だったらゆずちゃんの家かな? なんて』
裕子さんのことは嫌いではない。
料理だって教えてくれたし、裁縫の仕方だって忙しくて不器用な私の母に変わって教えてくれた。だから、尊敬できる人ではある。
尊敬できる人ではあるのだが、こうして時々揶揄ってくるから少し苦手な人でもある。
こんな夜遅い時間に祐作が来るはずないのに。
来るとしたらペンのインクが切れたから貸してくれだとか、A4用紙が切れたから貸してくるだとか、そんな理由だ。
私や裕子さんが望むような言葉を一度だって彼は呟いたことは無い。
寝言だって、1~100まで全部空を飛ぶこと。彼の頭は空に羽ばたくその日までいかに人間が空を飛ぶかでいっぱいなのだ。
「電話が通じないんだとしたら、やっぱり部活中ですね」
『やっぱり?』
「ええ、やっぱりです」
『そう、ちょっと急ぎで伝えたいことがあったんだけどなぁ……』
電話越しで顔も見えないはずなのに、チラチラとこちらに目配せする裕子さんの顔が浮かぶ。
そんなことをされなくても請け負うのに。ため息交じりで私は口を開く。
「伝言しましょうか?」
『ほんと!? 助かるわ~!』
次いで裕子さんが言葉にしたのは明るい雰囲気とは裏腹の、私も幼い頃にほんの少しだけお世話になった人の訃報だった。
今日の筋トレ日記
腕立て伏せ30回
腹筋30回
背筋30回
これを2セット
改題は今日の昼ごろにしますね。