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第14話

 11月2日ぶん

 最後は第三者の視点です。

 次はどんな話書こうかな?

 翌年の夏。

 鳥のように人の力だけで空を飛びたいと願う空バカが集まる大会の会場は、やはり例年と変わらず温暖化が進む原因ではないかと疑ってしまう程に熱気で満ちていた。

 企業作の飛行機が、個人作の飛行機が、大学生作の飛行機が、一つまた一つと飛ぶたびに観客は歓声をあげ、声援を送る。そして記録を出すたびにあたかも自分がそのチームの一員になったかのような気分で一喜一憂するのだ。


 そんな熱が帯びた大会も飛び立つチームが無くなれば終わりを迎えてしまうのは自明の理。そして、今まさに最後のチームが飛び立つための準備を始めていた。

 高さ10メートルに及ぶ離陸地点。これを高いと見るのか、低いと見るのか、それは人によって異なるだろう。その上に乗るのは、コックピット上部にプロペラを取り付け、10メートルは優に超す巨大な細く長い翼。現在整備班が最期のチェックを行っている。

 離陸地点へ登壇するための階段を登ってすぐの所でその様子を眺めるのは、今回パイロットを担う青年と設計を任された青年。それからこの大会を主催するテレビ局のアナウンサーだった。



「あの、木崎選手? あ、あの~?」

「おい、木崎! 木崎!!」

「え、あ、は、はい?」

「二度目の出場ですが、緊張していますか?」



 パイロットの名前は木崎祐作。180センチある身体は前年と変わらず筋肉で固められている。特に顕著なのは、プロペラを動かすために必要なペダルを回すための太腿の筋肉だ。

 前年、もう少し絞った方が良かったのではと言われた大柄体格。それは一つも変わっておらず、またインタビューの第一声もほとんど変わっていない様子から観客の中には前年の悪夢とも呼べる出来事を想起する人間もいた。

 飛び立って、数十秒もせずにへし折れた主翼。真っ逆さまに落下していく機体。整備不良か、設計時の計算ミスか、それとも重量過多か……。大会近くなって主力パイロットが怪我をして変更になったという話を聞き、そして祐作の巨体を見た者達はみな体重制限に引っかかったと予想していた。


 アナウンサーの方に意識も向けず、ボンヤリと飛行機を眺めていた祐作。前年と今年の彼の表情の違いを見抜ける者は数少ないだろう。



「緊張、ですか?」

「ないない、こいつに緊張のきの字なんてないですよ。いっつものほほんと生きてる奴なのに。去年が特別だっただけですよ」

「酷くないですか、先輩」

「インタビューにも答えないでボンヤリしてるからだろ」



 背中をバシバシと叩きながらカラカラと笑う設計担当の青年の言い分に祐作は不服があるのか、顔を顰めながらそう言った。しかし、チームメイトの皆が苦笑いしている様子から鑑みて、その言葉は当たっているらしい。

 そのことをアナウンサーの一人が拾うと、祐作の言葉を遮って設計担当の青年が笑顔のまま愚痴をこぼし始めた。

 やれ、片付けが出来ない。やれ、好きなことに対する話が止まらない。やれ、筋トレ後は一目を憚らず上半身裸になる。最後のことに関しては部室か家でだけだと反論するも、女子がいるんだから遠慮しろという言葉によって一蹴された。許可はしっかり貰ったのに、という言葉はマイクにも拾われることは無かった。



「あ、あはは……。木崎選手は子供の頃からこの大会に出ることが夢だったと聞いておりますが、それは何がきっかけで?」

「飛びたかったんですよ、空を……。ほら、ちょうどあそこに飛んでいる猛禽類のように。自由な感じがして、かっこいいでしょ?」

「かっこいいですね! では、ずばり今回の目標は?」

「誰よりも遠く、誰よりも長く、誰よりも楽しんできます」



 そんな彼の一言でインタビューは終わりを迎える。

 祐作は機体の方へ足を運び、機体に手を触れた。手から伝わってくるのは燦燦と照り付ける太陽の下でもひんやりと冷たい機体。だが、手のひらから伝わる感触には確かな熱を彼は感じ取っていた。

 期待が流れ込んでくる。それを彼は背負うようなことはしなかった。口角を僅かに釣り上げ、コックピットへと入り込み最終確認を行う。

 二度目の大舞台。同じ場所。だが、確かに違うものがある。



「無線オッケー! GPSオッケー! プロペラ回します! プロペラオッケー! 全部、あ、水おっけ! 全部オッケーです!」

『忘れものねぇな!』

「はい!」

『今回の大会で完走者は出てない! だから! 好きなだけ飛んでこい!』

「はい! 出まぁす! お願いします!」



 仲間の声が心地いい。

 ペダルが重くない。

 視界には青空が広がっている。

 全部がクリアだった。閉鎖的な空間だから、コックピットの前が蒸しているせいで若干曇っているから、だから全部明瞭なわけないだろうなんて言葉は野暮だ。前年度は全てが重圧に感じ何も入ってこなかった。だけど、今年はどうだろう。

 前年、こんなにも綺麗で心が熱くなる景色を無視していたのかと、祐作は自嘲気味に笑う。



「「「「いっけぇえええええ!!」」」」



 チームメイトに機体を押され、期待で後押しされ、そんな昔のことすら掻き消える。


 思考も、視界も、全てが前を向いていた。


 ふわりとした浮遊感。ペダルをこぎ、前を見据える。


 独り占めしたいと願っていた。だけど、今はほんの少しこの感動を分け与えたいと思える空が流れていく。



『祐作! 頑張れ!!』



 一番傍で支えてくれた、一番この感動を分け合いたいと願う人の声が聞こえた気がした。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回


・少女(柚葉)

 夢を追いかける祐作の背中をずっと見てきた人物。だから、追いつけないことへの小さな嫉妬とかを書きたかったけど、そのせいでちょっと嫌な性格にしてしまった。祐作が散らかした部屋を片付けて、料理を作ってたくさん食べてもらうことが趣味。

・少年(木崎祐作)

 夢を追いかけた少年。本来は祐作の背中を見続ける柚葉の視点でずっと続けようと考えていた。だけど、プロローグで出したから書いた方がいいか、ということで祐作の内面を書きたい時だけ登場。

 大学に入るまで自由奔放に暮らしていたために、大学で集団社会の中に放り込まれ苦悩する。そこを幼馴染が引っ張り上げるはずだったのに母親が持ってった。まぁ、息子がこんな状態なのに母親が動かないのもどうよ、ということでそのまま進行。


 好きなことをやって生きていく。そんな人生を送りたかった……。


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 次の作品もよろしくお願いします。

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