第11話
10月30日ぶん
んー、記憶力が良くないせいか前に書いた内容の大雑把なことは覚えているけど詳細までは覚えていない。ので、心情描写に矛盾が生じている気がしてしまう。
人の心は時間や状況によって移ろうものとは言うが……。それで片づけることは出来ないだろう。
私が寝ている間はどうなっていたのだろう。周りに迷惑をかけていなかっただろうか。そんな不安が過るほど長い時間なり続ける私の携帯を取ったのは、祐作だった。とらせてはいけない人に取らせてしまった。電話口から吐き出される言葉を予想して「あ……」という言葉にならない音が漏れる。
きっと繋がった先は私がこうなった原因の一つ。聞いてもらいたくないという感情と、それを聞いて祐作はどんな反応をしてくれるのだろうかという不安が心を占めた。
「もしもし」
『……』
「もしもし? どちら様ですか?」
『——』
電話越しに呟かれた声はなんと言われたのか私には聞き取れなかった。だけど、不快そうに祐作の顔が歪んだのを見て「ああ、やっぱり」と理解する。
祐作がこちらにチラと視線を送ってきた。それに苦笑いで返すと、彼は一つため息を吐き出しながら携帯を軽く操作してベッド脇の戸棚の中にしまった。
「いつから?」
「ごめんね、不快な思いさせちゃって」
「いつからだよ……」
「私が悪いの。だから、祐作は気にしないで……」
じっと見つめられて、私はたまらず視線を逸らす。
三度目。もう一度同じ問いかけをしてきた祐作に「なんでもないの」というと彼はドカリと体を再び椅子に下ろした。
でも、案の定というべきか、いつもの彼らしくないと言うべきか、ジッとこちらに視線を向けるのは止めなかった。
「ねえ、祐作……」
「なに?」
声をかけると棘のある声が返ってくる。いつもより低い声に体が反応して僅かに縮こまるのが分かった。
「祐作は、またあの大会にパイロットとして出るつもり?」
「まあ、うん」
「そっか。それはどうして?」
「どうして?」
「うん。どうして?」
おずおずと逸らしていた視線を元に戻す。こちらを探るような視線は止まないけれど、私の質問に対しての答えを探っているのか、時折瞳が色々な方向に動いていた。
祐作がまだ頑張っているのは知っている。でも、窓から見えた彼の後姿はいつもの夢に対してひたむきに努力し続けるものとは違っていた。
大学に入るまで彼は自由だった。
というのも、翼を開発するのだって、自分を鍛えるのだって、それは全て自分「だけ」がしたいことだったから。だから、祐作はそうはしなかったけれど手を抜いたって誰から責められるわけじゃないし、途中で道を諦めたとしても誰からも文句を言われることはない。
祐作は、いい意味でも悪い意味でも、自由だった。
大学に入って、彼は初めて同じ夢に向かって突き進む仲間を手に入れた。
子供の頃祐作の理解者だった人物はもちろんいる。家族が、先生が、祐作に手を貸してくれた皆が、そして私も祐作の夢を応援していた。だけど、それは全て応援止まりだったのだ。
一緒に飛ぼうとする人は誰一人として現れなかった。一緒に翼を作ろうという人も、一緒に遠くまで飛ぶ紙飛行機を作ろうとする人すら、なんで鳥は飛べるかを一緒に考えてくれる人すら、祐作の前には現れなかった。
大学に入って祐作は、初めて運命共同体というものを手に入れ、体感し、そして一年目で背負って、果てに失敗した。
「ねえ、どうして祐作はもう一度このサークルのパイロットとして飛びたいの? あの大会に出ている人の中には個人で出ている人もいたよね。莫大な時間とお金が必要なのは予想できる。でも、一つの道としてはそういうのもあるよね。どうして?」
「……そんなことより、あの電話なんなんだよ。僕はそっちの方が知りたい」
「私はこっちが知りたい」
考えた末に祐作は左手で前髪をクシャリと潰すと、前の話を持ち出した。多分これは誰かが来るまで同じ問答の繰り返しなんだろう。誰かが折れないと話が進まない。でも、どちらかが折れればその話で一日が終わってしまう。それが分かってるからこそ、私達は自分を譲らず問いかけ続ける。
ごめんね、祐作。
ありがと、祐作。
今日の筋トレ日記。
畑仕事で疲れたのでお休み。




