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3 トモダチの月

なんだかんだ言っても、美優は私にとっても優しい。

津田と付き合うようになって、美優と2人で過ごす時間は少し結構減ったかもしれないが、それでも美優は変わらない。

変わらず私に接してくれた。もちろん変わらず津田にも。


美優は男子に人気がある方だと思う。

恋愛対象なのかどうかは男子に直接アンケートでもとってみない限り女子である私にはわからないが、

少なくとも女友達としてはかなり人気がある。恋の相談も結構受けているみたい。

比較的男子と接点がない私が津田と友達になれたのも津田が美優の友達だったからだ。

だからもちろん、津田との歴史は美優の方がずっと深かった。

それに対してどうこう思ったりしたこともなくはなかったが、それでも私は美優に絶対的な信頼をおいていた。



「芽衣! 帰ろーぜ」



今日だけだなんて言っていた美優も、私の泣きの願いをしぶしぶ聞いてくれて

今では3人で帰るのが主流になっている。といっても付き合っているのは秘密なので、

教室のみんなが帰るまで待って、門で待ち合わせた。

美優は本当に優しい。美優や津田といると、不思議と自然に自分が不治の病気であることも忘れた。



「うん……」


「なに?」


「…美優がさ、休むなんて珍しいよね」


「ああ…そうだな。あいつが学校休んだの見たことねーかも」



どうしよう。

私はこのとき本気で思った。

私、美優がいないと津田と2人で帰る勇気もないんだ……。


誰かにバレたらどうしよう。

話すネタがない。

そんなことばかり考えて。



「私美優の家寄って行くね!」


「俺も行こうか?心配だし」


「ありがたいけど…女子の家だし、今日は私一人で行くよ」



津田と別れて、校門を出てすぐに正直ほっとした。

美優を気にするふりをして、実は自分を守りたいだけなんて、なんていう人間だろう。

美優と自分を比べると、直さなければと思う部分は数え切れないほどあると思う。


美優の母親に挨拶し、2階の美優の部屋に上がる。

それはいつものことだった。美優の家に行くたび、そんな順序。

美優の家に初めてあがった、小学校2年生のときからずうっと続いていたこと。

美優の母ともかなり親しく、親も友達だったので簡単にあがれていた。

今日も今までのように、自分の家のようにあがれると思っていた。

だけど、何故か今回は実際そうはならなかった。



「芽衣ちゃん、お母さんは知ってるの?家に…芽衣ちゃんが来てるってこと」


「え?学校帰りなんで言ってないですけど…」


「…じゃあ今お家に電話するからちょっと待っててくれる?」


「はい…」



なんでだろう。いつもと変わらないことなのに。ずっと普通だったことなのに。

電話が終って、美優の部屋まであがらせてもらえた。

木製のドアを、いつも続いていたようにノックする。



「芽衣?」


「うん。お見舞いにきた」


「入って」



美優はベッドに座っていた。意外と大丈夫そうでほっと安心した。



「美優平気?休むなんて珍しいからびっくりした」


「……ちょっと気分悪くってさ」


「え?!今も?私いて大丈夫?」


「それは別に…ってか風邪とかそういうんじゃないと思うし」



なんか、聞いちゃいけないようなかんじだった。

風邪じゃないって、ストレスとかそういう系のこと?



「あのさ、具合悪いんならわたし帰るよ…?学校休んだんだしやっぱ寝てた方が……」


「芽衣こそ学校なんて行っちゃって平気なの」


「え………」


「芽衣さぁ、病気なんでしょ?あたしなんかよりずっと悪いの。

 なんで学校来てんの?やばいんでしょ?あと3年って」


「……」


「学校なんて来なければいいじゃんっ

 死んじゃうような病気の人が来てていいわけ?!

 前からわかってたんでしょ! なんでなんでもない顔してんのよ?!」


「ご、ごめ……美優にはまだ言わなかったけどでも…」


「そんなこと言ってるんじゃない!」


「…!」



美優怖い。隠してたから怒ってるんじゃないの……?

だって、美優が怒る理由なんてそれくらいしかない。

少なくとも私には、思いつかない。

しばらくの沈黙。美優の目に涙。

美優泣いてる……。なんで?隠してたからじゃないの…??

わかんないよ……。



「……もーいいよ……芽衣は…なんでか全然、全部わかってないの。友達だったんじゃないの?」


「と、友達でしょっ!だけどわかんないよ!

 なんで美優怒ってるのっ?言わなかったのはごめんね?

 だけどそれしか……」


「……今日は、帰って」



しばらくの沈黙。私は泣き目で部屋を出ていく。

美優のお母さんに小さく一言あいさつして、自分の家へと。

美優があんなに怒ったのは初めてかもしれない。

あれに近く怒ったことはあっただろうけれど、あれほどまでに怒ったのは今日が初めて。

だから、今日の迫力には勝てない。

冷静にそんなことを考えていたら、涙があふれてしまった。

頬に落ちる。まだ家についていないというのに止められない。

涙が止まらない。

美優が怒ってる。

それだけで、怖いというより、胸がぎゅってなった。

切なくなった。

たぶん、私の大好きな美優が、私に怒っているからだろう。

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