1 コクハクノ月
もしも地球があと3日なら、
そんなふうに考えて毎日を過ごせればよかった。
もしも地球があと3日なら、
きっと私は片想いの津田に告白するだろうか。
大好きなたらこのパスタを食べ、1回くらいラッキーの散歩もするだろう。
うざかった担任の大木にももしかしたらお礼のひと言も言ってやるかもしれないし、
隣の席のバカな青木に、今度は消しゴムのひとつもかしてやるのかもしれない。
いつもうるさかった親に置手紙を書いて一日一人旅に出て、大事なものを見つけるかもしれないし、
興味本位で書いてみたケータイ小説をどこかの出版社に送りつけたりして。
3日じゃとても結果は返ってこないだろうけれど。
3日じゃ全然、何にもろくに、夢のようなことはできないかもしれないけれど。
大好きなスタバの抹茶プラペチーノを飲むことくらいはできたりして。
得ることはできないかもしれないけれど、感じることはできたりして。
毎日毎日、ただ生きているから思わないだけで
実は現実もあと3日で終幕が下りるのかもしれない。
だってどんな舞台だって、終幕の前に出演者の挨拶があるわけじゃないでしょ。
幕が下りて気づく終焉に、「ああ私たちは」
「何か得ることができたのかな」って思ったりして。
「おっ芽衣! どうしたの、今日一人?白屋いないね」
「…うん、ちょっと……」
だから決めた。
自分が病気、しかも難病治す方法はありません、あと生きていられるのは半年ですって
知ったからかもしんないけど、それでも私は決心したんだ。
あと半年でも、自分が、もしかしたら津田が、悲しむことになったとしても。
届く事がないとしても、叶うことがないとしても、それでも後悔するよりいいと思ったから。
なんかの偉い人が、
"人は行動を起こした後悔より行動しなかった後悔の方が数倍重く感じる"って言ってたのを思い出す。
「津田っ」
「はい? え、どしたの顔まっ赤……」
「わたし…ずっとね」
あと半年とか言われたら、すっごい気になるようになっちゃったじゃん。
ってことはきっと、あと半年でも私は後悔したくないってこと。
未練たらたらーで、成仏できないのはきっと苦しいしね。
「ずっと…前からっ」
…たぶん津田が好きなんだ。
そう言ったら、津田はどんな反応をするだろう。
そして、どんな半年を過ごすのだろう。
フラれるだろうか。
無視されるだろうか。
無視されるんだったら、フラれる方がマシだって、きっと美優は言うだろうな。
ああ、いろいろ考え過ぎかも。
顔がアツイ。
頭がくらくらしてくる。
言わなきゃって。
私が無視みたいなことになっちゃうじゃん。
そんなこと…絶対だめでしょ……。
「芽衣?…おい芽衣ッ!」
津田の顔がボヤけて消えた。