「家の中でも」
あれから俺はかなり頑張った。と思う
歩けるには歩ける。だが10数歩程度なので考えた結果、壁を伝って行くことになった。
ま、まぁ2歳半程で歩けるほうがおかしいんだけどね....。
壁に体重を預け、サイドステップの容量で手繰り寄せながら動く。
よし行ける!
ハイハイでもいいのだが、本やドアがあれば見てみたいし、頭で開けたりするのはちょっと無理なので、壁つたりを選択した。
手で開けたほうがいいしね、届かないけど。
くぅー。難い、生前あんなに簡単にこなしていたことが、幼児体型になっただけでこんなに辛いとは...。
そして俺は壁つたりでどんどん進んでいく。
すると、ドアの出っ張りに躓いてしまい体制を崩し、転んだ。
いてぇー。こんなに痛いとは。これは泣くな。赤子なら。
そう思いつつ立ち上がろうとする。が、起き上がれない。
腕の力がまだ弱いのか力を入れても上半身を上げることができない
ふん。俺の人生もここまでか、ははは...。
“誰かー、助けてーー!”
そんなことを心の中で叫びつつ、再度腕に力を入れていると、俺の脇を、少し冷たく細い手が俺を掴み持ち上げていた。
「レナディ様。大丈夫ですか?」
そう言い、立たせてくれたのはやはりレインだった。
何故やはりだって?それは、レインの行動にある。
レインは何故か俺が困っている時や、何かをしたいときに必ずいる。
正直、怖い。
そんなこともありつつ俺は目的の場所に着くことができた。
そして俺はドアを思いっきり押すが開かなかったため、結局レインに開けてもらった。
怖いが、優しいのがレインなのだ。
ドアを開ければそこには大きな木でできた棚にずらーっとなれべられた本があった。
ここは、書庫だ。多分あってると思う。かなり大きい。
こんな沢山書物があるんだ。書庫じゃないほうがおかしい。
「レナディ様。書庫に行きたかったのですか?」
そんなことを後ろからレインに言われた。
ほらねやっぱり書庫。よかった〜間違ってなくて。
そう。俺は書庫にきたかったんだよ。文字を学ぶためにな。
まだ読めないからどれがどれかわからないけど....。
そんな事はいい。独学で...。ん?待てよ。俺は文字がわからないけど。わかる人がいるじゃないか!
レインだ。そうレインから習えばいい。
俺は倒れながらだが本棚まで無事たどり着くことが出来た。
そうして、レインの方を見る。期待の眼差しでだ。
すると、レインがこちらの視線に気づき近づき膝をつき言う
「童話でも読み聞かせましょうか?」
そう言われ、俺は首を横に振る。するとレインは露骨に困った顔をした
「では、歴史でも話しましょうか。」
歴史、興味をそそられるがこれも首を横に振る。
するとレインは笑顔を作り冗談混じりだろうか言ってきた
「では、文字でも教えましょうか?笑。って私はまだ赤子のレナディ様に何を言ってるのやら...」
思ってもない幸運だ。ふざけ半分でもいい。
そんなことを言ってくれた、言い出してくれたレインを俺は見つめ、首を縦に振った。
「え....?」
レインは固まっていた。赤子が言葉を理解し、行動したのだ。驚くもするだろう。
だがレインは茶化す事なく真剣に文字を教えてくれた。
1時間か2時間経った頃、レインは本を閉じ俺に向かって言う
「どうですか?面白いですか?あまり自身はありませんが...」
と言ったので、俺は首を縦に振りながら声を振り絞って言った
「あ.....が.....と。」
と言えた。まだ声帯も出来上がっていない掠れた声だが。口に出せた。
礼として受け取ってもらえたかどうか...。
それを聞いたレインはハッとした顔になり顔が少し歪み、目の端に涙を浮かべながら
「はい...どういたしまして」
そう、笑顔で答えてくれた。
どうやら、感謝は伝わったようだ。
よかった。
その日から、メイドのレインとの書庫での文字の授業が始まった。
たまにシャリスが見にきていた。シャリスは忙しいのか、あまり長い時間見ていることはなかった。
レインはメイドなのに教えるのがとても上手い。俺はまだ声は少ししか出せないが、頑張って出したりした。
「なーる?」
「エールです。レナディ様」
まだあまり上手く声が出せないのが悲しくなってくる。
だが、授業のおかげで大体読めるようになってきた、文法はどちらかというと英語とドイツ語をミックスした感じで、英語よりの文法だった。
生前、いつ使うんだと愚痴をこぼしながら学んだ甲斐があった。
ドイツ語はマスターというより初歩的なことしか学んでいなかったがなんとかなった。
他にも、フランス語・中国語・イギリス語と他3ヶ国は少しできる。
こんなところで役に立つとは思わなんだ。
それから1年が過ぎた。
俺はこの世界の人間語の文法を大方理解した。これもレインのおかげだ。
それに、この一年の間に声も出せるようになった3歳と9ヶ月で喋れるようになった。
嬉しい。
最初はレインに話しかけた、教えてくれた最初の人だからな。
「おはようございます。レナディ様」
「お、おはようございます。レインさん」
そう返した。するとレインの反応は面白かった
「え?....」
「え?」
そう交互に言うとレインがクスっと笑い
「これは愕きました。ちゃんとしゃべれるようになったのですね。」
この会話の前にも何度か喋ったが、うまく発音できていなかったのかもしれない。
「はい、レインさんのおかげでなんとか。」
「レナディ様。私に“さん”はいりません。私はただのメイドですから。」
そんなことを言われたが、俺はレインに感謝を感じている。なので“さん”を外すと言う選択肢はない。
「そうですか?目上の方に敬語を使うのは普通ではないんですか?」
そう言うと、レインは困った顔をしていたが、頷いていた。
会話が終わった後、レインは走ってどこかに行ったかと思えば、シャリスを連れて戻ってきた。
するとシャリスは俺の方に駆け寄りまたもや強く抱きしめられた
「レナディ、あぁなんて可愛いの。この年までほっぽり出していてごめんね。これからはもう大丈夫だから。」
なんのことかわからなかったが、俺も実母に会えて気持ちが高まっていた。
「それに、言葉も喋れるようになって。」
安堵した声で言われた。
母親との再会の後、朝食を取った。
レインも食卓についており、ここ数年の俺の様子を楽しげに話していた。
なんか照れ臭いな。
まぁ俺もシャリスのことも聞きたかったが、シャリスとレインが俺の話題で白熱しているのでまたの機会にでも聞こう。
それから、いつものように文字の授業をレインとしていると、シャリスが大人に似合わない不貞腐れた顔でこちらを見つめていたので、
「母様も教えてください」
と俺はシャリスに言うと、シャリスの顔の笑顔が戻り
「わかったわ、一緒にやりましょ!」
そう言って、俺の方に駆け寄ってくるシャリスを見てレインは苦笑していた。
「ここは、わかる?」
とか
「ここわねー」
とシャリスはきめ細かく教えてくれた。家族との時間を作ってくれているのか、レインはあまり静かになり話さなくなったが、
「シャリス様、そこはこうでは?」
「え...?あ、そうねそうだったは!」
とはしゃいでいるシャリスを見て俺はなんだか、心が暖かくなった。
この時間が、ずっと続けばいいな。
こうして、文字の授業に先生が一人増えたのだった。
投稿頻度がまばらですが、これからも頑張って連載していきます