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堕ちゆく少女のモノガタリ  作者: 雪川美冬
一章 仮面の殺人鬼
24/33

第十七話 前編

「さて、自己紹介でもしましょうか」



 まゆりが入り存じた部屋はモノクロで統一された部屋でした。

 部屋の中からだとドアは隠し扉のような形になっており、一見するとただの壁にしか見えません。しかし押すと簡単に開きます。

 部屋の中央には黒と白のチェック柄の絨毯があり、その上に黒い長方形の木製テーブル、テーブルの長い方の面に二人掛けソファが置いてあります。

 まゆりは上座側のエレベーター近くにあるソファに黒猫と駄犬と呼ばれる男性は隠し扉近くのまゆりの向かいに側に座りました。

 机の上には三人分のホットコーヒーが置かれています。

 座った瞬間、開口一番に黒猫は唇に綺麗な弧を描いて冒頭の言葉を言い放ちました。

「………」

「あら、無視?ならこちらから。私は猫屋敷(ねこやしき)黒香(くろか)、コードネームは黒猫。隣のは駄犬とでも覚えておけばいいわ」

「おい待て!てめぇが勝手に呼んでるだけだろこの野郎!!」

 黒猫の自己紹介に男性は机をバンと叩いて抗議しました。

「ね、わんころみたいにキャンキャンうるさいでしょ?」

 その抗議の声を黒猫は嘲笑するだけです。

「………」

 まゆりは聞く耳持たずでソファの上で足を抱えて座りじっと二人を見つめて警戒しています。

「っち、オレの名前は狼谷(かみたに)犬夜(けんや)で狼犬だ!駄犬なんてゴミみてぇなコードネームじゃねぇからな!」

 抗議が意味をなさいないと悟るや駄犬と呼ばれていた男性こと狼犬はまゆりに言い聞かせるように凝視し指差しました。

「………」

 ですが、まゆりはやっぱり聞く耳持たずで二人を見つめ警戒するだけです。

「それで、あなたのお名前は?」

「……」

 じっと見つめていた視線を外します。抱えていた足を下ろし、ナイフを一つ膝の上に置き柄を握りながら、重たく閉ざしていた口をようやく開きました。

「『凶殺の道化師』それ以上、開示する情報はない」

 言い終えたと同時に柄を握る力を強くしました。生意気だとお前は捕虜だと攻撃されてもいいようにと考えたが故の行動です。

「あっそう、なら勝手に呼び名決めちゃうわね」

「……?」

 思っていた反応と違うことに驚きながらも柄を握る力を緩めたりはしませんでした。

「私と同じ不吉の兆、そうね……カラスなんてどう?」

「……好きにすればいい」

 まゆりは黒猫の方にチラッと一瞬だけ視線を向けました。

「気に入ってくれた?」

「別に」

 ニコニコと微笑む黒猫にそっけない態度で返します。

 内心、あの加虐趣味の女と同一人物かとまゆりは訝しんでいました。

 下唇を噛みながらどういう思惑かと猜疑心を持ち考え込むまゆりに、黒猫が崩れることのない唇に綺麗な弧を描いた微笑みを浮かべたまま聞きます。

「コーヒー、飲まないの?」

 まやりは一瞬だけコーヒーに視線を向けてすぐに逸らします。

「自白剤なんかがまた入れられてたらたまらない」

「いれないわよ。もう十二分に効果が出ているんだから」

「そんなことないかもしれない」

「本来のあなたなら返答せずに押し黙っていたはずよ。それを容易く口を開いて反抗するんだから効果は抜群ね。これ以上は薬の無駄。無駄なことはしないわ」

「………」

 図星を突かれたまゆりは黙りこくりました。

 そんなまゆりの姿に黒猫はふふふと笑い声を上げます。

 何がおかしいのかと黒猫をギロリと睨みますが、それすらも琴線に触れたのかさらに大きな笑い声をあげました。

「あなた本当に素直ね。顔見れば全部丸わかり」

「嘘つけ、ミリ単位で動かないじゃねぇか」

 黒猫の言葉にしばらく黙って聞いていた狼犬が茶々入れをします。

「さすが駄犬ね洞察力がないんじゃないの?まぁそうね、顔というより目ね。目は口ほどに物を言う。この言葉をこれほどまでに体現してる子そうそう居ないんじゃないかしら?」

「はぁ?」

 理解できないと言わんばかりの反応をしながらじっとまゆりの目元を凝視する狼犬。

 まゆりは居心地悪そうに目を逸らしコーヒーの入っているカップに口を付け、中身を口の中に含みました。

「わっかんねぇ」

 チッと舌打ちをこぼし、ぐびっとコーヒーを飲み干しました。

「……うっ!」

「……ぶふっ!」

 まゆりは口を覆い飲み込むことを拒否するコーヒー(?)を無理矢理飲み込み、胸を押さえて激しく咳き込みました。膝の上に置いておいたナイフを鞘から抜きます。

 狼犬は口に含んだコーヒー(?)を盛大に吹き、急いで部屋の隅に置いてある冷蔵庫の中から水とプラスチックコップを二つ取り出しました。

 一つはまゆりの前へと置き、一つは中身を入れた瞬間直ぐに飲み干します。

 まゆりは置かれた瞬間すぐに取り口の中に水を全て流し込みました。

 抜いたナイフは敵意がないとわかるや鞘の中に戻します。

「おいてめぇ!味覚ないからって劇物淹れんなよ!!」

 水を二杯がぶ飲みした後、狼犬は黒猫の胸ぐらを鷲掴みにしながら声を荒げました。

 まゆりはプラスチックコップを狼犬の方に向けて水を貰うとちびちびと口の中を濯ぐように口内に満遍なく水が渡るようにして飲みました。

「そんなに?味見したけど痛みとか痺れとか無かったわよ」

「基準おかしいだろ!!」

 まゆりは狼犬の言葉にこくこくと頷き肯定します。

 先程まで黒い液体にしか見えなかったコーヒー(?)が今はカップの底から気泡が弾け、その複数の気泡がシュミラクラ現象を起こしています。

 思い込みによる錯覚からなる物です。

「はぁー、くそがっ!自分で淹れるわ」

 鷲掴みにしていた黒猫の胸ぐらから手を離し、冷蔵庫の隣にある戸棚を開けます。

「……もしかしてあれがラストか?」

「ええ」

 狼犬は舌打ちを溢しながら部屋から出て行きました。

「さて、駄犬がこの階から居なくなったら私がカラスを生かした理由を話すとしましょうか」

 まゆりは真剣な顔付きで頷きます。

 しばらくすると上着と財布とスマホを持って戻ってきたかと思うとそのまま真っ直ぐエレベーターのボタンを押しました。

「カラス、だっけ?なに飲みたい?」

「え、あー、えーっと……」

 突然振られて目をぱちくりさせながらもエレベーターが到着する前に決めようと頭を捻らせます。

「私強炭酸」

「酎ハイ?サワー?」

「普通の強炭酸水でいいわよ。勧誘中に飲むわけないでしょ?」

「へいへい」

 二人の会話に二十歳(はなち)超えてるんだ。と思いながら、何か甘くない飲み物がないかを考えます。

「……できるだけ甘くない、モカ?」

「モカって何?」

 ようやく絞り出した答えにも関わらず、狼犬にはそれがわからないようでまゆらは困り果てます。

 そしてちょうどそのタイミングでエレベーターが到着してしまいました。

「チョコレート入りのコーヒー?」

「ココアじゃだめか?」

 まゆりは別にそこまで飲みたかったわけじゃないと心の中で言い訳をして諦めました。

「無糖の紅茶でいい」

「なんか悪い」

 狼犬はまゆりの回答を聞いてすぐにエレベーターに乗り部屋から出て行きました。

 なんだかんだ待ってくれる優しいイジられ好青年です。

「それで、生かした理由は?わざわざ牢屋に入れて痛ぶって、そんなことして時間を稼いだ理由は?」

 狼犬がいなくなった途端に今日一番の長文話すまゆり。

「あなた男が苦手なのかしら?それとも人見知りが激しいタイプ?」

「……別に普通」

 黒猫はまゆりのことを生暖かい眼差しで見つめました。

「……それで、理由は?」

 黒猫の視線に耐えられなくなり、急かすように聞きます。

「まぁそんなに急かしなさんな。一から順にちゃんと説明するわよ」

 黒猫はコーヒー(?)を時折口に含みながらわかりやすく丁寧に説明してくれました。

 説明すると以下の通りです。

 黒猫がまゆりを気に入ったので第一支部(ウーナ・ノクス)の一員に加えたかったが『凶殺の道化師』であるがためにできませんでした。組織の目的が『凶殺の道化師』がいつこの組織を標的にするかわからなかったため手を出される前に無力化する(殺す)こと。それならば懐柔したと操り制御(コントロール)できると組織本部に伝え信じさせることができれば解決するんじゃないかと思い拷問という手に出たそうです。痛みで恐怖は植え付け支配し、それから飴をたくさん与えることで裏切られないようにすれば組織の一員に加えても何も言われないだろうと。しかし、状況が変わり四年もの間『凶殺の道化師』を捕えて無力化するどころか見つけることさえできない状態に痺れを切らした上層部がいつまでも支部一つを遊ばせるわけにもいかず、一旦『凶殺の道化師』の件を白紙に戻すことになったため、今になって勧誘しているとのことです。

「まさに渡りに船よね」

「おかしくない?一旦白紙に戻すにしても元標的を子飼いにしようって」

「まぁ今更だけど本部に突き出してもいいわけだしね」

 黒猫はコーヒー(?)を最後の匹敵まで飲み干した後に楽し気に微笑みます。

「そんなのどうでもいいじゃない。それに私、というより第一支部(ウーナ・ノクス)の面々はあまり勤勉な面子じゃないもの。実力はある問題児しかいないわよ?」

 黒猫曰く、この第一支部(ウーナ・ノクス)の第一責任者である指揮官の若造年増は本部からの依頼に見向きもせずに日々自分の傀儡となる死人を集めているだけらしいです。

 曰く、副隊長の座を任されている狼犬は本部から回ってくる副職的な依頼で死体を蹴飛ばして遊んでいるらしいです。

 隊長の座を任されている黒猫もこのような奔放な性格です。

「……終わってる」

「そうなの。本部長もヤキが回ったとしか思えない人選よね」

 ふふふと笑いながら言う台詞ではありません。

「………」

 ——なんで支部として成り立ってる?

「まぁせいぜい扱いに困って、使いあぐねてればいいわ」

 黒い笑みを浮かべる黒猫。

 きっと過去に何かあったのだろうと容易に想像できます。というより若造年増と呼ぶ人物と本部長の話題になった途端、急に辛辣な言い回しと黒い表情へと変わりました。とにかく嫌っているご様子です。

「さて、次はあなたのカラスの番。これだけこっちは情報を開示したのよ。同等の価値ある情報を返すのが筋じゃないかしら?」

 黒猫は唇に綺麗な弧を描き直し微笑みます。

「………」

 なまじ真面目なまゆりは聞いてしまった手前どんな情報を開示すれば黒猫が満足するのかを考え出しました。

「な、名前は……」

「真面目ね」

 言葉を遮り感想を漏らす黒猫に、まゆりはキッと睨みつけました。

「あらごめんなさい?でも、カラスからの情報はもう少し待ってくれる?」

 その言葉と同時にポンという軽快な電子音がなりました。後の方へと視線を向ければビニール袋を持った狼犬がエレベーターから出てきます。

「たでーまー」

 狼犬は机の上にいろんな種類のお菓子、二人が頼んだ強炭酸水と無糖紅茶のペットボトル、最後に自分のであろう辛口生ビールと書かれた缶を机に置くと残りを冷蔵庫にしまいにいきました。

——わたしの話を肴にしようとしてる?

 黒猫に視線を向ければ彼女は廊下のビールに目が釘付けになっています。

「駄犬!サワーある?」

「あー、ある」

 狼犬は冷蔵庫から強炭酸サワーと書かれたお酒を取り出し机に置くとどさっとソファに座りました。

「勧誘中に飲まないんじゃ……?」

「細かいことはいいじゃない」

 二人してプシュッと缶を開けてぐびっと一口で半分ほど飲み干します。

 黒猫はキムチ味のお菓子に赤い粉をまぶして口を付け、狼犬はたばこに火をつけ始めました。

 これが二人のつまみのようで、とても美味しそうに酒を飲み進めます。

「……自由」

黒猫「辛いものの他にしっかりと歯応えのある食感のものも好きよ。お酒のつまみにもよく合うもの」

狼犬「酒に合うつまみはタバコだろ?」

まゆり(こんな大人にはなりたくない)



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誤字があっても多めに見て、「仕方ないから教えてやるか」という寛大な心で許してください。

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