7月14日金曜日
7月14日の金曜日。
人生最悪の日になった。
先に自己紹介が先か、事の顛末が先か。
まぁどちらにせよ後々やる事になるんだ。
先に何が起こったかを全て話そう。
結論だけ言う。
俺は死んだ。
学校からの帰宅途中、狂人が街の中を包丁を持って走っていたらしい。
そんな狂人の走る先に運悪く俺。
元々運動神経は良かった方であった為、誰かの叫び声を聞いて後ろを向いた。
するとそこには既に奴がいて、それを避けようと車道側にズレた。
そこでこれまた運悪く足を滑らせた。
横からは何も知らない車が一台…。
ぶつかる瞬間に色々と思い返す時間が出来た。
小学生の純粋な思い出。
中学生の時になった中二病の黒歴史。
そして高校生に夢見て絶望した入学後数週間。
中学の時に言った『思い出なんかいらない』なんて言う言葉は、本当に中二病だったらしくて…。
まだ読みたかった漫画の事、話したかった好きな人。
やらかして謝れてない友人。
色々な事が溢れ出て来た。
ぶつかる直前。
俺が思った事は『あぁ、まだ生きたかったな』。
ぶつかった。
身体がおかしな方向に曲がったかもしれない。
骨が折れるような音もした。
視界が飛ぶ。
痛い。
痛くない。
熱い。
地面が近づくのを感じる。
ゆっくりと目を瞑った。
ザパンと水に入るような音がした。
それから暫くして、目をゆっくりと開けた。
おかしい。
目を開けたはずなのに真っ暗じゃないか。
ぼうっとした頭を叩き、目を無理矢理開かせようとする。
おかしい。
頭を叩いたはずなのに、その鈍い痛みが全く感じない。
下を向いても、暗闇。
右を向いても、暗闇。
左を向いても後ろを見ても、前もじっと凝らしてみても。
…上を向くと、少し明るい。
何か影が覆い被さっている。
──邪魔だなぁ。
それは人のように見えた。
──退かさないと。
見えない手を伸ばしてそれに触れる。
その瞬間感じた。
ここで質問だが、君達は自分の後ろ姿を見た事があるか?
答えは大半がNoだろう。
当たり前だ。
写真でも撮って見せられない限り、そうそう自分の後ろ姿なんて見ない。
俺自身だって後ろ姿を見ても自分かどうか、顔を見なければ分からないだろう…。
しかも逆光で顔が全く見えないのに…。
それでも分かった。
──これは俺だ。
でもどうしてここに?俺は死んだんじゃないのか?
おかしい。
おかしい。
感覚が狂う。
グンと上であろう場所にいる俺に引き寄せられる。
気持ち良いか悪いかで言えば、悪い。
髪の毛を引っ張られているのではなく、身体の頭の上の部分だけを引っ張られる様なよく分からない感覚だった。
それが次第に全身に周り、すっぽりと俺が俺に嵌った。
そんな時、頭上で鳴り響く聞き慣れたデジタル目覚まし時計の音を聞いた。
目を開けるとそこは見慣れた天井だった。
目覚まし時計を叩き起き上がる。
机の上で充電してあるスマホを取りにベッドから降りる。
夢だったのだろうか?でもあの痛みは夢に思えない。
確か今日は15日…。土曜だったよな。
…こんな時だが結論のみを訂正しよう。
「…は?」
異世界に転生でもなく、別の死にそうな人、あるいは死んだ人に乗り移りや、幽霊になって復活!なんてことでは無い。
むしろ、これから起きる事に向かって言うのであれば、そうなってくれた方が嬉しかった。
結論を言おう。
7月14日の金曜日。
俺は、生き返った。
そんな俺の持つスマホが表示する日付は
7月13日。
俺が死ぬ前日だった。