5話:ボクたちは転生者
本日二本目の投稿になります。
前回の簡単なあらすじ:選ばれた理由が『転生者だから』だった。
9/27 いくつか追記しました。
11/23 行間を少し変更しました。
12/11 アレクサンダーさんを先王に変更しました。
ーー時は、アレク様とライセン様とのお茶をしている場面に遡る。
『実はね、フェリシアは“前世の記憶”を持っているんだよ。それもキミや陛下と同じ“日本”のね。』
『え、それは本当ですか?』
『うん。アレク様が確認したら、そうみたいだったよ。』
『ワシも最初は何も感じとらんかったんじゃが、よく考えると、ワシの言葉に違和感を持たんかったのは、あの子だけじゃったんじゃ。』
そう言って先王陛下は、ひとつ間を開けて、ボクに尋ねた。
『おぬしは、教官から真っ先に逃げたものと、10番目に逃げたもの、どちらがより臆病者だと思う?』
『何ですか、その“五十歩百歩”の例えのような話は』
『そう、まさにそれじゃ。ワシもその話を聞いたとき、同じようなことを言ったのじゃが、その時フェリシア嬢だけ反応していての。この国にそんな言い回しはないからの。まあそれだけならたまたまの可能性もあったのじゃが…』
その時以外にも、アレク様が“日本で使われる”言い回しを使うたびに、フェリシア嬢は反応していたらしい。極めつけは、
『フェリシアがまだ中等部に上がったばかりの頃の話なんだけど、同じクラスでなかなか剣の腕が上がらなくて、悩んでいた騎士志望の女の子がいたらしいんだけど、そのときその子に、“桃栗三年柿八年と言いますし、少しずつ頑張って行けば良いのです。”って言ったらしいんだ。それを聞いても誰も意味がわからなくて、その場の全員がきょとんとしてしまったらしいけどね。』
『それは確定ですね、少なくとも“日本を知ってる人物”です。』
この国はエルフとの交流が深く、広大な果樹園を所有しているのだが、桃や栗、柿など、日本で馴染みのある食べ物のいくつかが存在しない。他国全ての情報を網羅したわけではないが、知っている限りでは、存在を聞いたことがない。
『で、それで少し慌てたフェリシアを、たまたま視察に来ていたアレク様が見つけて、話を聞いた結果、フェリシアが“元日本人の転生者”だとわかったんだ。』
『ワシとしては、驚き半分、喜び半分じゃったぞ。なにしろ当時はおぬしが転生者じゃと知らんくて、日本の会話ができる相手がおらんかったからのぉ。お米が食べたくなる、とか』
『わかります。』
そう、実はお米も見つかっていないのだ。
そしてここまでで気づくとは思うが、アレク様も日本からの転生者なのだ。そのためこの国には、それとなく日本で馴染みのあるものがあったりする。郵便システムの確立や上下水道の整備など、アレク様が国王であらせられたときの功績は数多くある。
閑話休題。
確かに現状、この国で日本からの転生者と確認できる人は、ボクを含め3人。1人は陛下だから、話が分かるボクが婚約者の候補になることは、まあ理解できる。しかし、しかしである。
『ライセン様、私はあくまでもただの子爵家の長男です。確かに父はライセン様と懇意にさせていただいているとはいえ、さすがに不釣り合いではありませんか?』
『そこは大丈夫だよ。誰が相手でも、取り込んじゃえば一緒だし。それに、今のキミなら、安心して任せられるし、そもそも今のこの国では、キミが一番ふさわしいからね。』
『え?』
前半の言葉にはぞっとしたが、後半の意味はわからなかった。ボクが適任とはどういうことだろうか。気になったが、それ以降ライセン様はニコニコとしているだけで、何もわからないまま、お茶の時間は終わったーー
「ーーと、いうわけなんだ。」
今日のお茶の内容を、四人に話し終わったのだが、トールとフィーアは複雑そうに、父さんは疲れたように、そして母さんはあらあらと言いながら。みんな程度はあれど、呆れたような顔をしていた。
「相変わらずだね、兄さんのそういう無自覚なところは。」
「兄さん、鈍すぎ。」
「まあ、調子に乗っていないと分かるだけ、幾分かマシか。」
「ルークちゃん、あなたはそのままでいてね。」
「???」
ーーますます意味がわからない。
読んでくださり、ありがとうございました。
次回は、宰相視点でお送りします。