2話:宰相をいきなりパパ呼びはきついです
前回の簡単なあらすじ:実は婚約していた。
11/23 行間の変更、段落の先頭下げ、若干の改稿をしました。
12/11 アレクサンダーさんを先王に変更しました。
12/13 会う日を変更しました。
フェリシア・シルエイティ。
宰相であるライセン・シルエイティ公爵の一人娘で、年齢は今年で22歳。幼い頃から公爵家での教育を受けており、特に、剣術と風魔法の扱いに長けている。学園では主席こそ取れなかったものの、成績は学業・実技ともに優秀で、在学中次席の座を譲ったことは一度もない。学園を卒業後は騎士団に入団。そこでもその才覚を発揮し、剣術と風魔法を同時に操る戦術から、いつしか『風の戦姫』と呼ばれるようになった。
そんな人が、ボクの婚約する相手であると言う。なるほど、確かに謎は解けた。婚約者が“いない”のではなく、“知らされていなかった”のだ。しかし。
「あの、すみません。これは何かの間違いでは?」
「いんや、そこに書いてあることは、ワシとライセン、そしておぬしの父であるズァーク、この3人で話し合ったことじゃ。」
「いや、しかし…」
「大体おぬし、ただの子爵家の長男が、ワシとお茶を何度もできるわけがなかろう?」
それを言われると、何も言い返せない。今回だけならまだしも、ボクがお茶に呼ばれたのは、一回や二回ではない。もちろん、依頼の報告のために訪れたこともあるが、宰相閣下へ報告に上がるなら、本来なら父がすべきことである。なぜボクが報告に行くのか、少し疑問に思っていたが、真相はこういうことだったわけである。
「まあ、そういうわけだから、キミはこれからウチの婿になるんだ。ボクのことは、パパと呼んでくれて構わないよ。」
「いえ、さすがにそれは…」
「ならお義父様でもいいよ?」
「そういうことでもなく。」
ライセン様は一人娘であるフェリシア嬢を大変可愛がっている、ということは、この国の貴族なら大体知っている。そんなライセン様に、ボクとフェリシア嬢の婚約を認めさせるとは、父は一体どんな手を使ったのだろうか。
「ふむ、私の娘では不満だと言うのかね?」
「いえそんな滅相もありません!むしろ私にはもったいないくらいの凄い美人で…あ。」
しまった、地雷を踏んだ。
「うんうん。そうだろうそうだろう、ウチの娘は可愛いからね。」
「ライセン、可愛いというのはな、ワシの孫娘たちのことをいうのじゃ。」
「何をおっしゃいますか陛下。私の娘の方が可愛いですよ」
「いやいやおぬしこそ何を言うか。ワシの孫娘たちの方が可愛いに決まっておろう。」
「あの、御二人とも。そろそろ戻ってきていただけると…」
…この御二人、ことご令嬢のことになると、よほどのことがないと終わらないのだ。ある日は2、3時間延々と口論を繰り広げられた(城内侍女より)と聞いている。国のトップが何をしているのかと思わなくもない。
「まあ、この決着は後でつけるとして。気に入っているなら何も問題ないじゃないか。」
「いえ、問題大ありですよ。いくら私が長男で、婿の立場といえ、子爵と公爵、それも宰相家ともなれば釣り合いが取れません。伯爵家以上の家々からなんと言われるか。第一、フェリシア様のお相手の基準は、とても高かったのでは?」
実は、フェリシア様に縁談を持ちかけた家は、今までにいくつもあったのだが、その悉くが、フェリシア様によって跳ね返されていた。
ある伯爵家出身の騎士の男は、「弱い男に興味はない」と切り捨てられ、ある侯爵家の次期当主は、「わたしをいやらしい目で見るな」と言って抜剣されかけるなど、話が上がるごとに、旗色が悪くなっていった。そのためいつしか、男嫌いが転じて、現在自身が団長を務める女性騎士のみで結成された近衛騎士団を設立したと言われるまでになった。まあ、それだけしてても、先頭に立って民を守るその姿は凛々しくも可憐で、男性だけでなく女性をも虜にしているのだが。
「なるほど。確かにキミがそうすぐに了承できないのもわかる。なら一度話をしてみるといい。」
「え?」
「明日、私の屋敷においでよ。フェリシアも呼ぶから、二人で話して見るといいよ。大丈夫、キミならあの子の相手をしっかりつとめられるよ。
――むしろ、キミしかいないと思うんだ、ちゃんとあの子と向き合えるのは」
そう言ってライセン様は、ボクにあることを教えてくれた。
「実はね……」
読んでくださり、ありがとうございました。
9/27 0:05 国王、宰相、父親の年齢を変更しました。
12/11 キャラの年齢表記を削除しました。