18話:すごい使用人ズ と、ライセン様の提案
前回の簡単なあらすじ
ライセン:「何か功績挙げて、ルークくん。」
ルーク視点に戻ります。
すみません、遅くなりました!
あと、若干いつもより長くなっています。
同日、微修正しました。
12/16 前話同様、大きく改稿しました。
フェリシア様との初めての会話から、四人での思い出話に移行して、しばらく経ったころ、一人のメイドさんがやってきた。
「フェリシア様、ルーク・ゼネル様。そろそろ御家族の方々が戻ってこられます。」
「あらセレナ、もうそんな時間?楽しいときって、時間が経つのは早いものねえ。」
「楽しめたのなら、何よりです。」
「ええ、存外に楽しめたわ。」
フェリシア様はそう言って、にこりと微笑む。その笑顔がまた美しく、この笑顔を作った一因が自分にあると思うと嬉しくなる。そしてちらりと今来たメイドーーセレナさんーーに目を向けると彼女はボクに一礼してきた。
「紹介するわ。この屋敷で副侍女長をしている、セレナ・ネストルよ。」
「セレナ・ネストルでございます。以後、お見知りおきを、ルーク様。」
「こちらこそよろしくお願いします。ところで、ネストルってことは、もしかして…」
「はい。学園を卒業後は、セバス様のご指導のもと、修行を積んでおりました。」
セバス・ネストルは、ゼネル子爵家の使用人統括を担う老人のことで、「王国イチの執事」との呼び声が高く、使用人としてのいろはを教える師匠の一面も持つ。その指導は苛烈を極め、脱落者も多いが、それを乗り越えた者は、その証として「ネストル」の姓を受け、その培った全てを使い、主に仕えていく。
「もっとも、私はそこまで大したものではありませんが」
「「そんなことはございません!」」
ここで、アニーとルアーノが同時に声を発した。
「セレナ・ネストルといえば、セバス様が初めてとった弟子として、使用人の間では伝説に近い存在。」
「お会いできて、光栄です。」
「それを言ったら、お二人のことも存じておりますよ?過去最高の“ネストル”として、その名はよく耳にします。」
…ボクは子爵家の人間なのに、使用人がすごい人ばかりというのは、どういうことだろう?
そうして五人で話し込んでいると、ライセン様たちが戻ってきた。
「どうだったかい、二人とも?初めて会話した感想は。」
「はい、とても楽しかったです。」
「正直、ここまで気が合うとは思いませんでした。」
「フェリシア、あなたさっきあれほど素を見せてしまったのだから、今更取り繕っても意味ないでしょう?」
「お母様!?」
ここでまさかの母親からの裏切りにあい、また顔を真っ赤にされたフェリシア様。うん、何回か見て慣れたはずなのに、やっぱり可愛い。どうやらボクは、思った以上に、フェリシア様が好きになったらしい。今までこんなことなかったのに、これほどとは。
「ふむ、ルークくんは、すっかりフェリシアちゃんの虜になっているようだね。」
「フェリシアの方も、『案外悪くないかも』って顔をしているわね?」
「ちょっと二人とも!!」
フェリシア様が落ち着いてから、ボクたちはまたソファに座る。
「さて、ルークくん。先ほど、私たちの方も話をしていてね。ズァークにも、この婚約を認めてもらった。二人が良ければ、この場で諸々の手続きをしようと思うのだけど、いいかな?」
「フェリシア様が良ければ、お願いいたします。」
「うむ。…フェリシアの方はどうかな?」
「……その前に、あなたに聞きたいことがあるわ、ルーク・ゼネル。」
「はい、なんでしょう。」
「もしワタシが、『重婚を認めない』と言ったら?」
「その通りにします。」
「即答なのね?」
「ええ、『女性の嫌がることはしない』が、ボクのモットーですから。」
「…わかったわ。
ーーズァーク・ゼネル子爵殿、私どもに、息子さんを下さい。」
フェリシア様はそう言って、真剣な顔で父さんの顔を見た。普通は男がすることなんだけど、今回はボクが婿入りするため、この形になった。父さんはそれを受け、ため息ひとつ、仕方がないなぁ、と言いたげな顔をした。
「ーーわかりました。ルークのこと、よろしくお願いいたします。」
「よし、とりあえずズァークは突破したことだし、続く第二関門について話していこうか。」
手続きを済ませ(ライセン様が前もって準備していたので、ものの2,3分で終わってしまった)一段落したところで、ライセン様がそのように言った。ん?第二関門とは一体……あ。
「他貴族の反応ですか?」
「その通り。まあもっとも、反対しそうなのは伯爵・侯爵家の一部の頭が堅い者たちだけで、多方面で活動しているキミは、一定の評価は得ている。いざとなったらごり押しで通せるから、婚約そのものは難しくないよ。」
ライセン様にそう言われると、少し照れ臭い。だが、
「そう仰るということは、やはり問題は」
「うん、伯爵家と侯爵家だね。聞くところによると、キミはこの層からは、あまり良い感情は抱かれてないようだね?」
「そうですね。学園に通っていた頃は、あの五人とよく行動をともにしていましたし、ノークレッド侯爵家以外とは関わりもありませんでしたから。」
ノークレッド侯爵家は、エアリス王国随一の研究機関の運営をする家である。その家の次期当主であるプロトン・ノークレッドと、双子の妹のマオ・ノークレッドはボクと同い年で、《風国の五人之異才》のうちの二人である。
《風国の五人之異才》は、その飛び抜けた才能もそうだが、家柄や容姿も目を引かれる。うち二人は侯爵家の人間で、第二王女に公爵家次期当主、公爵家ご令嬢と、この国の上層部の家系の出身なのだ。
彼らの入学当初、その家柄に惹かれ、多くの学生が、縁を持とうと、学年を問わずに押し寄せた。しかし、ボクが五人と関わるようになると、次第にボクは五人の人避けとして使われるようになり、少なくとも家柄目的で人が寄り付くことは減っていた。その分、王女様や侯爵令嬢、公爵令嬢を狙っていた伯爵・侯爵家のご令息に、ボクは睨まれることになったわけだが(学園の教師は、学生を色眼鏡で見ることはないし、子爵以下はそもそもはじめから諦めて、「名前は覚えてもらえたら嬉しいなあ」状態だった)。ボクがいた学年は伯爵・侯爵家の令息はあまりいなかったのが救いだった。
それに、ボクはゼネル家に舞い込む仕事を手伝っていたわけだが、伯爵・侯爵家からの依頼は、一部の家を除いて受けたことがない。
以上のことから、ボクは一部の伯爵・侯爵家から、よく思われていないのだ。
「今までなら、このことはあまり気にしなくて良かった。しかし、キミがフェリシアの婿になるのなら、そういうわけにもいかない。次期宰相ともあろう者が、一部とはいえ貴族に認められていないというのは、由々しき事態だからね。」
…ボクがライセン様の跡を継ぐのは確定なんだな、とは思ったが、今は黙って話を聞く。
「私は考えた。どうしたらルークくんをすべての貴族に認めさせることができるかと。そして先日、至極もっともな考えにたどり着いた。『それならいっそ、ルークくんに功績を挙げてもらおう』と。」
「あ、なるほど。そうきましたか。」
「そうそう。ほら、この国では功績を立てた者には、財産しかり、姓しかり、褒美を与えるだろう? なら、何か国からの依頼を公的にして、その褒美として今回の婚約の話を出してしまえば、誰も文句を言えない、って寸法さ。これなら、家柄や実績に文句を言うことはできないからね。」
ライセン様もおっしゃられたように、ここエアリス王国には、功績を挙げ、国に認められた者に褒美を与える制度がある。この制度を使えば、ボクが何か『公爵令嬢へ婿入り』という褒美に見合った功績を挙げられれば、少なくとも家柄や実績への文句は言いづらくなる、ということだ。
「というわけで、さっそくひとつ任務を出そう。」
そう言ってライセン様は、一枚の便箋を渡してきた。これはいつも依頼を受けるときに使うもので、これに依頼内容が記されている。
「今開けても?」
「もちろん。」
許可をもらい、便箋を開ける。そこには国王陛下の字で、「『静寂の森』に大量発生した魔獣の調査、及びその討伐」と簡潔に書かれていた。
「『静寂の森』。」
「そう。そこに少人数で向かい、排除してきてほしい。これの成功を以て、今回の話を出そうと思っている。どうだね?」
聞かれるまでもなく、断りはしないし、討伐は問題ないと思う。しかし、
「さすがに、原因の調査は難しいかと」
「大丈夫。後日話をつけるけど、この任務にはプロトンくんにも参加してもらうから、キミは討伐とプロトンくんの護衛に専念してくれていいよ。」
《風国の五人之異才》が1人、《理系の申し子》プロトンは特に研究や調査など、理系分野において数々の実績を誇る、エアリス王国イチの“サイエンス馬鹿”だ。
「他には誰が参加するのですか?」
「あとは、周辺地域への激励に向かう者が二名、『翠の風』から15名ほど、炊き出しや身の回りの世話をする人が数名かな。」
『翠の風』は、フェリシア様が団長を務める、女性騎士のみで編成された、近衛騎士団だ。女性とはいえ実力は申し分ないと、実際に所属する顔馴染みから聞いている。ーーうん、戦力として申し分ない。
「わかりました。つつしんで、お受けいたします。」
「良かった。では、出発は4日後の明朝、集合場所は、王都にある『翠の風』の詰所。ーー頼んだよ、ルークくん。」
「お任せを。」
こうして、ボクの婚約/結婚がかかった任務が決まった。
ーーここがボクの、そして世界が変わるひとつの分岐点だったんだろうなと、後々思い出すことになるのだった。
読んでくださり、ありがとうございました。
次回から、更新が不定期になる可能性があります。
投げ出したりはしないので、
また読んでいただけると幸いです。
12/16 プロトンの2つ名を変更しました。