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13話:ライセンの屋敷に行こう ~道中にて~

前回のあらすじ:シルエイティ公爵家は、一晩中準備をしていた。


ズァークさん視点でお送りします。


12/13 なかなかに大きく改稿しました。

楽しんでもらえるとありがたいです。

12/16 追加しました。

 御者が操縦する馬車に乗って、俺たちゼネル一家は、ライセンが待つシルエイティ公爵家に向かっている。いつもは乗馬で乗り込むのだが、さすがに正装で乗馬をするわけにもいかず、今回はおとなしく馬車で行くこととなった。まあ、本来はこれがあるべき姿なわけだが。

 俺は馬車が苦手だ。どうにも自分で操らないと落ち着かない。それをルークに話したら、ルークは「よくわかります」と頷いていた。いや、お前は別に苦手じゃないだろ。むしろ好きだろ、馬車。


 ここで、馬車の様子に目を向けてみる(ちなみに席は、前に後ろ座りで俺とフェルト、後ろに前座りで、左からトール、フィーア、ルークと座っており、ルアーノとアニーは御者の両隣に座っている)。

 公爵家に行くということで、トールとフィーアが若干緊張した顔をしている。二人は初めて行くうえに、公爵に無礼を働けば、子爵家は最悪取り壊しの可能性もあるため、その気持ちは分かる。もっとも、ライセンは多少の無礼でとやかく言うヤツじゃない。そこまで心配しなくても良いのだが。


 反対に、緊張の欠片も見られないのが、妻のフェルトと、今回の主役のルークである。なんと、二人でチェスをやっている。確かにこの馬車は、通常のものよりも室内が広いため、スペース自体はある。しかし、さすがにこれはどうなのだ。と思っていると、フェルトが拳を上に掲げ、満面の笑みをさらす。どうやら勝ったらしい。

「やった~!わたしの勝ち♪」

「これで一勝二敗、負け越しか~。そろそろ近づいてきたし、今はもうやめようか。」

「お前たち、さすがに呑気すぎじゃないか?」

 俺の問いに、二人は声を揃えてこう言った。

「「だって、今更緊張しても、仕方ないでしょ?もう何回も会ってる相手なんだし。」」


 まあ、二人の言い分は理解できる。学生時代、フェルトは俺やライセンの後輩で、ライセンとはよく会っていたし、結婚後も何度か会っている。ルークの方も、仕事の報告代行(先王陛下とライセンの指示である)や、単純に二人のお茶に呼ばれて、ライセンだけでなく、先王陛下にもよくお会いしている。そんな二人が、今更緊張するはずもない。



「ところでルーク、あれだけお呼ばれされて、よく今まで疑問に思わなかったな。」

「いや~、多分同じ境遇の人に会えたのが嬉しくて、頭から疑念が抜け落ちてたみたいだね。」

「まったく、いったい誰に似たんだか」

「二人の影響も受けてるだろうけど、ほぼほぼ前世のままだね。」


 ルークは昔から、あまり物事を気にしない男だったのだが、どうやらそれは、“元”からだったようだ。このゆるさが、トールを時期当主に指名した決め手の一つなのだが、それすら本人(ルーク)は気にしておらず、のほほんとしている。だからそういうところなのだ…

「本当、兄さんは大物だよね。」

「そのゆるさがなければ、普通に優良物件として名前が上がってもおかしくなかった。」

 トールとフィーアがそれぞれ言うが、フィーアの発言は的を射ている。


 トールやフィーアのような美形ではないが、顔立ちは整っている方で、成績は学年次席。実際、学園でも多少の人気はあったと、偵察隊から報告を受けている。もっとも、誰かに好意を直接告げられたことはない。それもそうだ。なにしろーー

「いや、どちらにしろ誰かに告白されることはなかったと思うよ、フィーア。」

「どうして?」

「だって、いつも近くで、“お二人”のどちらかが目を光らせていたからね。

 いくら狙ったところで、《才媛なる美姫》と《単独歌姫舞台(ワンマンディーバ)》が近くにいたんじゃ、話し掛けられないよ。」

「なるほど。」

 トールの言葉に、フィーアは納得していた。


 ルークの学年は、何か一つのものに才を持つ者が多く、中でも《風国の五人之異才(クインテット)》と呼ばれる五人は群を抜いていた。五人は瞬く間にその学年、ひいては全国民の中心となっていた。

 ルークはその五人と仲がよく、行動を共にすることが多かったそうだ。トールが言った《才媛なる美姫》と《単独歌姫舞台(ワンマンディーバ)》は、それぞれ第二王女と公爵家令嬢のことで、特にこの二人が常にルークの近くにいたらしい。確かにこれでは、声をかけるのは至難の技だ。それにしても、


「ルーク、お前散々そのお二人と一緒にいて、よく生きていられたな。お二人にはファンも多い、かなり恨まれていたのではないか?」

「いや、そんなことはなかったよ?知ってると思うけど、ボクの学年は子爵以下の家の人が多くて、5人の家柄に緊張して、それどころじゃなかったんだよ、きっと。」


 実際報告書によれば、ルークはそもそも自分からお二人に近づいたことはない。どちらもたまたまであったり、同じ講義を通して知り合った、という流れだった。

「お二人のことを、異性として意識してなかったのか?」

「いいや、むしろお二人のことは好きだよ。ただ、ボクはどちらのことも好きだから、自分から言うのは(はばか)られたんだ。どちらも好きな状態で告白するのは、不誠実が過ぎるからね。第一爵位が違いすぎて無理だよ。」


 この国では一応、重婚は認められているが、ルークは先王陛下同様、重婚が禁止されている国で過ごした記憶を持っている。そのため重婚には魅力を感じつつも抵抗があり、けれど本人いわく惚れっぽい性格のせいで、誰かを好きになりつつ、告白も出来ない状態になったのだそうだ。まあ、相手は第一王女と公爵令嬢だ、子爵家の長男でしかないルークが手を出せないのは、本来正しい。しかしーー

(報告隊によれば、お二人はどちらもルークに好意は持っているご様子。それを、特に男子生徒には隠し通していたらしい。まったく、そんなところで“器用貧乏”を発揮させるな、ルーク。)


 我がゼネル子爵家は、代々《器用貧乏》の名で知られており、何でも平均をこなす便利屋として認識されてきた。だがそれは表向きの話で、裏では国からの依頼をこなしてきた。俺の代になってからは表立った功績も増え、今では筆頭子爵にまでなった。

 そんななか産まれた俺の長男(ルーク)は、少し趣の異なる器用さを見せた。教えたことはどんどん吸収していき、達人にこそは至らなかったものの、多くのことは一流に近い再現度を誇る。はっきり言って、この領域は器用貧乏には収まらない。だというのに、本人はいつも決まって『ボクは中途半端な男だから』と言う。正直、もう少し自覚してほしい。ただの器用貧乏では、そもそも学年次席など取れない。


「ルークよ、ならば今回の婚約の件についてはどうなのだ。」

「相手から寄ってきたなら、真摯に対応するよ、そりゃ。その人を大切にするさ。」

 なんともまあ、“らしい”ものだ。相手が公爵令嬢、それも『風の戦姫』でもこう言い切れるのだから、フィーアの言うとおり、“大物”である。



「まあまあ三人とも。ルークちゃんなら大丈夫よ~。とりあえずは、フェリシアさまに会ってからよ~。」

 フィーアの言うとおりである。まだお互い、しっかりと会ったことすらないのだ。会わないことには始まらない。


「シルエイティ公爵家のお屋敷が見えて参りました。」

 ちょうどここで、ルアーノから屋敷に近づいてることが知らされた。

 最近は報告にはルークが行くため、ライセンの屋敷に行くのは久しぶりである。あいつは元気にしているだろうか、いやきっと元気だな。

 俺も少し、楽しみになってきた。

読んでくださり、ありがとうございました。


次回、ついに主人公とヒロインが面識します。



10/10 改稿しました。

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