1話:全てはここから始まった「どうして婚約者がいないと思う?」
初投稿です!
よろしくお願いいたします。
11/23 行間を広めにしました。
12/11 アレクサンダーさんを前国王に変更しました。
「最近はどうじゃ、ルーク君よ?」
「何か問題はないかな?」
ボク――ゼネル子爵家長男、ルーク・ゼネル――は今、王都ウィンの王城・エアリスの応接間で、アレクサンダー・ウィン・エアリス先王陛下と、この国――エアリス王国――の宰相、ライセン・シルエイティ公爵、御二人とテーブル越しに向かいあっている。テーブルの上では、3人分のコーヒーが湯気をたてている。
「はい、特に問題はありません。」
「本当に助かっとるよ。ゼネル家には感謝しとる。」
「ゼネル家のおかげで、私たちは国政の安定化に努められるわけだからね。」
「恐れ入ります。」
ゼネル子爵家は、他国の情報収集や、魔物が活性化していないかの調査、人探しなど、多方の分野で活動を行っている。
一つ一つの分野では専門家に及ばないものの、1つの家で粗方の細事は片付けられるため、年中さまざまな依頼が届いている。
そのため、伯爵家や侯爵家からは、「何でも屋」「器用貧乏」などと揶揄されることは多いが、反面、他の子爵家や男爵家からは信頼されており、子爵家でありながら、こうして陛下やライセン様の前に参上する許可も得ている。――とはいえ、こうしてお茶に呼ばれるのは、何か違うのではないかと思っているのだが。
しばらくコーヒーを楽しんでから、ライセン様がこうたずねられた。
「ところでルーク君。キミは確か、次期当主ではなかったね?」
「はい、家督は弟が継ぎますので。」
ボクは子爵家3人兄妹の長男。本来ならボクが現当主である父の後を継ぐのだが、家督は2つ下の弟であるトールが継ぐことになっている。
「そういえばそうじゃったな。」
「はい。領主としては、弟の方が優秀ですので。」
一般的に、家督を継ぐのは、平民・貴族に関わらず、長男であることが多い。しかし、親族でもっとも優れた、もしくは適した者が継承する家も存在する。これは主に鍛冶師の家系などでよく見られる方法だが、ゼネル子爵家もこの方法を採用している。
あらゆる分野を満遍なくこなすゼネル家ではあるが、個人個人で見ると、多少の向き不向きがある。ボクが主に、情報収集を除いた“実行”の分野に偏っているのに対し、弟のトールは、情報収集や、“流れ”を読むことに秀でており、とにかく指示の出し方が上手い。ゼネル子爵家には、年中多くの依頼が届く。当主はそれを素早く捌き、早急な指示を出さなくてはならない。そしてそれは、トールがもっとも得意とすることであった。
そのため、トールのその才覚が発覚した8年前から、父はトールを次期当主と定め、ボクは学園を卒業後、実行部隊のとりまとめを行ってきた。
「ちなみに、弟君には婚約者がいるよね?」
「はいそれはもう、次期当主ですから。」
「妹さんにもいるよね?」
「えぇまぁ、5つ離れていますが、仲は良好なようです。」
「そして、キミにはいないね?」
「えぇ、そうですね。」
「君は『なぜ自分には婚約者がいないのか』と、疑問に思ったことはないかね?」
ライセン様にそう問われ、思わず首をひねってしまった。
次期当主であるトールには、トールと同い年で、今年学園を卒業する婚約者がいる。また、今年高等部に進学した、16歳になる妹のフィーアも、ボクの1つ上(つまりフィーアとは5歳差)ではあるが、懇意にしている男爵家の次期当主と婚約している。しかし、長男であるボクにはいない。そもそも、縁談の1つさえ聞いたことがない。言われてみれば、だいぶ不自然である。あらゆることを想定し、事前に対策の悉くを尽くす、現当主である父が、『トールとその婚約者の急死に備えたルークの次期当主繰り上げに伴う婚約者』を決めないということが、あり得るだろうか?とはいえ、理由はさっぱりわからなかった。
考え過ぎの可能性もあるため、とりあえずそのことは後で父に聞くとして、今は御二人に意識を戻そう。そう思って視線をあげると、御二人はニコニコとした笑顔でボクを見ていた。
「あの…」
「そうか、やはり何も聞いておらんかったか。」
「えっ」
「本当に彼は、キミが20歳になるまで、このことを話さなかったのか…」
「???」
ますます訳がわからなくなってきた。ボクが不思議そうにしていると、先王陛下が徐に、一枚の手紙のようなものを出し、ボクの前に置いた。
「これは…」
「おぬしが20の年になったら、見せようということになっておったのじゃよ。」
「送り主は、ゼネル子爵家現当主。宛先は、陛下と私だよ。」
「父が書いた手紙…」
「というよりは、誓約書だね。もしくは許可証」
「はい?」
先王陛下とライセン様相手に許可証とは、我が家はいつの間に偉くなったのだろうか。とにかく読めとのことなので、読むことにした。
――読み終わって、ボクは下手をすると、人生で一番驚いたことになってしまった。
『親愛なる先王陛下、並びに宰相閣下へ
以前打診がありました、我が嫡男、ルーク・ゼネルと、宰相閣下の御息女であらせられる、フェリシア・シルエイティ嬢との婚約を認め、ルークを宰相閣下の公爵家へ婿として送る件について、謹んでお受けすることと致します。……
ゼネル子爵家現当主、ズァーク・ゼネル』
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