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霞んだ桜色(25)
「先生に着て欲しい!私はまだ着れないから!」
自分がウェディングドレスを着るなんて、最近は想像するのも止めてしまっていた。着てみたくない訳ではないが、私が少女の母親ならば、やはり娘以外には着て欲しくは無いと考えてしまうから……
「気持ちは嬉しいんだけど……。やっぱり、それはあなたが着るべきだよ」
「でも……」
唇を噛みながら少女は下を向いてしまった。
「うーん、そしたら今はまだ店長、結婚してないし結婚したら、またお願いしてみたらどう?」
「ちょっとあんた、そんな勝手なこと……」
「……うん。ちょっと出かけてくるね、ありがとう」
後輩の言葉もすり抜けるように肩を落としたまま、とぼとぼと階段を下りて行ってしまった。
「ごめんなさい、その……」
何も言わずに廊下から窓の外を見続けていたお爺さんに、訳も分からないまま謝るしか出来なかった。