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霞んだ桜色(20)
「お陰様で頭痛も無くなりました、私の部下まで元気にして頂いて、感謝しきれません。ありがとうございます」
少女に手を引かれて連れてこられた彼は、優しく微笑んでから手を繋いだままの後輩と私を、交互に見て小さく頷いた。
「僕は話を聞いただけで何もしていないよ。むしろ君達に元気をもらったくらいさ」
後輩が何かを話そうとしたときに、少女がそっと手を差し伸べた。彼の左手は固く握られたままで、薬指の指輪は西日を反射させて燃えるように鈍く光っていた。
「ほら、お爺ちゃんも手繋いで!」
誰よりも早く提案してくれた少女の響く声に、彼は鼻を照れ臭そうに掻きながら答えた。
「え、いや、僕は……」
どうしてだろう、全く抵抗が無く気付けば右手を差し出していた。懐かしいような優しい気持ちだけが頬をかするように駆け抜けた気がした。