霞んだ桜色(17)
「ちょっと耳貸してくれる?」
「何ですか?急に大声とか止めて下さいよ?」
「いいから。大事な話」
口を尖らせながら不満そうに耳を貸してくれた。彼にプレゼントしてもらったんだと自慢してくれたピアスは無くて、そこに空いたままの小さな穴が、とても暗く見えてしまった。
「ちゃんと聞いてね……」
「聞こえてますよ……」
冗談を言うつもりが、その穴に心が落ちてしまいそうになって、躊躇してしまった。きっといつか、新しいピアスを自慢してくれる。そのときには彼女の傷も無くなっていて欲しい。それまでは私が、今までと変わらず側に居てあげたかった。
「もし、次に看病してくれるときは……。キスしても良いからね」
吹っ飛ばされたかのように大袈裟に後退りする彼女を見て、笑うつもりだったのに優しく微笑むことしか出来なかった。
「っな!何言ってるんですか!」
「逆に、あんたを看病するようなことがあったら、坊主にするからね。だからその、怪我とかしないように、約束よ」
私の意図を察してくれたのか、目を見開いて固まり、一度だけ顎をしっかり落として頷いてくれた。
「はい、約束します。そう何度も言わなくても、大丈夫ですよ。もう自分を傷付けたりしません、約束します」
「うん。色々あったけれど、これからもよろしくね」
右手を差し出すと、彼女は慌てて右手を拭いてから勢い良く重ねてくれた。