霞んだ桜色(16)
「あー!」
彼へのメールを三回も打ち直して、ようやく送れた後に悲鳴が響いた。
「ちょ!帰ってきたの?ち、違うのこれは!」
後輩が慌ててベッドから降りるよりも早く、少女は足早に去って行った。私も慌てるべきなのだろうけども、どうしてだろう、何故か元気に動き回る彼女達が可愛くて微笑んでしまった。
「お爺ちゃん!やっぱりあの二人出来てるよ!」
「待て待て!違うったら!どこでそんな言葉を覚えたのよ!ちょっと、店長も笑ってないで何か言って下さいよ!」
「ふふ、別に良いんじゃないの?私はあんたのこと好きよ?」
「ちょ!」
分かりやすく、酷く古典的に両手を上げて、後退りながら驚く後輩を前に、悪いとは思っていながらも笑いが抑え切れなかった。
「っぷ、あはは!」
「もう!からかわないで下さいよ!彼に店長の悪口言いますよ!酔ったら酒と言って水を渡しても、バレないアホだって言っちゃいますよ!」
「……減給されたいみたいね」
「ちょっと!無茶苦茶じゃないですか!公私混同ですよ!このパンクロッカーは狂ってます!絶対に先生が帰ってきたら叱ってもらいますからね!」
「ふふ、ごめんごめん、冗談だって。それで、あの子どこかに出掛けていたの?」
「あ、そうなんですよ。店長がお昼食べて急に寝ちゃった後に、一応病院に連れて行くって留守番を頼まれていたんですよ」
「それで看病してくれていたんだね」
「そうですよ!意地悪言われる筋合いはありません!そりゃあ、私が原因ですけれど……。もう少し優しくしてくれても良いじゃないですか……」
「そうね、ありがとう。それじゃあ、こうしましょうよ」
「何ですか?また悪いこと考えていませんか?」
彼女のこんな顔が前から好きだった。お互いにちょっかいを出し合って困っていながらも、どこか楽しんでいる。溜め息を吐いて呆れながらも、少し笑顔がはみ出ちゃっているような。そんな関係を、取り戻せた気がしていた。