霞んだ桜色(15)
「そうだ店長!彼に連絡しましょう!」
「え、連絡?」
「そうです!色々ありましたけれど作戦続行ですよ!善は急げです、早速連絡しましょう!」
「そ、そんな急に言われても、連絡先も聞いてないし……」
後輩は私の上に乗ったまま、素早く携帯電話をテーブルから取って笑顔で渡してきた。
「ふふん、私に任せて下さいって言いましたよね。抜け駆けして彼に連絡を取っていた女も居たみたいですし、心配いりませんよ」
「……本当に吹っ切れた感じね、そっちの方があんたらしくて安心出来るんだけどさ」
「ええ、本当に迷惑ばっかりかけてしまいましたから、これからは本気で店長を幸せにしてみせます」
目の前にある後輩の顔は、やっぱり前髪も不揃いで心配になるくらいの見た目のままだけれど、その言葉は私にも嘘が一切無いと分かる、真っ直ぐで胸が熱くなる程の熱量があった。
「ありがとう。でも本当に良いの?あんたも彼のことを……」
「良いんですよ。彼より、私を振ったあいつよりも、大切な人に気付けましたから」
「私にとっても、あんたは大切なんだから忘れないでね。自分を傷付ける前に相談するんだよ」
「はい。本当にご迷惑おかけしました」
「ううん、迷惑だなんて思ってないよ。よし、私も頑張らなきゃだね」
「はい!一緒に頑張りましょう!絶対上手く行かせますからね!」
「ふふ、やっぱりあんたは頼れる後輩だね」
「ふふん、浮気された経験を活かしてやりますよ!それじゃあ彼の連絡先教えますね!」
後輩が上に乗ったまま作った彼への文章は、ありきたりな社交辞令だったけれど、彼女と一緒ならきっと上手く行く、そんな根拠の無い安心感が本当に嬉しかった。