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霞んだ桜色(11)

「お父さんはどこに行っちゃったの?」


 少女がベッドで横になっている女性に尋ねている。二人とも顔がぼやけていて、良く分からない。不自然なくらいにセピア色した、水彩画のように薄く不安定な世界を、部屋の片隅から動けずに見つめていた。これは夢だろうか……


「……お父さんはね、ちょっと出かけているだけよ」


 母親らしい人物は、少女から顔を反らして真っ黒な窓を見つめているようだった。部屋の中は眩しいくらいに明るいのに、その窓だけがカーテンも無いのに抜け落ちたように闇だった。


「……いつ、戻ってくるの?」


 きっと少女は何回も同じ質問をしてきたのだろう、その小さな右手には折り紙で作られたチューリップが握られていた。力無く頭を下げる黄色いチューリップ、葉っぱの部分は緑色、ちゃんと二枚も使って作ったのだろう。


「ごめんね、お母さんにも分からないの。でもね、良い子にしてたら、きっとまた会えるから」


 母親は優しく少女の頭を撫でていた。それを見ていると不思議と辛くて仕方がなかった。


「分かった!良い子にしてるよ!小学校に行ったらね、勉強も頑張るんだ!」


「あなたは本当に良い子ね。その綺麗な鼻筋もお父さんそっくりになってきたわ、きっと美人になるわよ」


「本当?やったー!」


「ええ本当よ、あなただけは幸せになるのよ、変な男に捕まらないようにね」


「うん!お父さんみたいな優しい人と結婚する!」


「……うん、そうね。きっと出来るわよ、大丈夫」


 セピア色の世界の中で、漆黒の暗い窓と黄色いチューリップだけが色を痛いくらいに放っていた。

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