コミュ症と無我の領地
リリカは迷っている。
「エオは何故、待っているのだろうか?」
混浴風呂で一人になったのだが、エオが残した捨て台詞、共有スペースで待ってます、という言葉の意味を考えていた。
最初は犯すつもりだろうとばかり、半ば決めつけていたが、ニュースでの彼の勇士や素晴らしい功績の数々をリリカは知っている。
「まさか、私の唯一の外出場所でこんなことになるなんて……」
リリカは引きこもりだ。
別にコミュ力が低いとか、人間が嫌いだとか、そんな理由は一つもない。
ただ、家業を継ぐこともせず、何となく日々を送っていたら、いつも間にかネットにはまり、自然と家から出ることをしなくなっていった。
だからこそ、銭湯以外、別に行くところがない。
料理はリリカの母であるルシカが作り、お金の心配は父がハロニー漁港で働いてるため、別に困らない。
「まぁー、家のお風呂もうすぐで修理終えるから、別にいいけど……」
最近になって日課になっていたが、銭湯すら、来ていなかった。
家には狭いが慣れた風呂があるので、そちらで済ますことの方が、当たり前に多い。
ただ、リリカに乗って引きこもってばかりでは駄目だと内心、思っていた。
だからこそ、自宅の風呂が壊れたことをきっかけに少しづつ、外の世界に踏み出そうと、意気込んでいた。
しかし、今日でその意気込みも一気に冷めた。
「もうそろそろ、上がるか……」
リリカは体を丁寧に吹き、髪を乾かし、服を着替えて、恐る恐る、共有スペースへと向かった。
「あ、いた……」
エオが牛乳を一気飲みしている。
「あ、あれは? キャロルさんと? げ! ホルセじゃん」
エオと仲睦まじく喋っているようだ。
チャンス。今のうちにこっそり帰ろうとリリカは忍足で音を立てず歩いた。
もう少し。もう少し。
「おれ? リリカじゃないか?」
ホルセの声で三人がリリカに目線を向ける。
「リリカ、待ってたよ! 話があるんだけど、いいか?」
エオはリリカを呼びとめた。
「いや、その…………」
「エオ、大丈夫だ。リリカは万年暇人だ」
ホルセがやれやれと言わんばかりに、リリカを馬鹿にした。リリカは言い返ししたいが、言葉が上手く出ない。
風呂場で、すらすらと言葉が出たのは余りの恥ずかしさに、無我の領地に達し、別人格のように喋っていたからであって、コミュ症ではないが、この状況を一変出来るほどの話テクは持ち合わせていない。
「リリカさんって花嫁候補だよね?」
「え……っとまぁ……一応……はい」
エオはさっきよりテンションが低いリリカを見て、瞬時に理由が分かった。
「さっきは急に、ごめんなさい。つい本音・・じゃなかった、見たままのを口にってそれも同じか」
エオは女性の裸を見た上に、胸やおっぱいの話ばかりしてしまったことを謝罪した。
謝罪としては最悪だが、リリカはエオの喋る雰囲気から、変なことをする人ではないと察した。
「そ、そ、それで? なんで私を待っていたの……? 花嫁候補……は関係……ある…………?」
「あ、あの、呪いのことは知ってる?」
「……元村長の……やつでしょう?」
「それを封印する鍵を、リリカも持っていると思うけど……?」
「……知らない」
「そうか……?」
エオはホルセに近寄り耳打ちした。
《どこがホルセさんに似ているんですか?》
《それは、パニックときに、リリカは私の口調を真似するんだ》
《なんで、そんな……》
《まぁ、色々、あるのさ。後で話すから、今はリリカのことどうにかしろ》
ホルセはキャロルの近くに戻っていった。
「あのー、リリカさん、鍵のことが分かれば連絡下さい」
「どうやって……?」
「僕のチャット、教えておきますから」
「あ……はい…………」
リリカはステータスを開き、エオのチャットを教えた。
「ありがとう! それじゃまた」
「…………」
リリカは去っていった。
「で、ホルセさん? 何を知っているんです?」
ホルセが何か知っていることは分かっている。リリカの性格が全く掴めないエオは少しでも情報が欲しい。
エオはリリカが見えないようになったあと、直ぐにホルセとキャロルの元に向かった。
そして、ホルセから詳しく話を聞くことにした。
「リリカはな―」
リリカの過去を語るホルセがあまりに飄々としていたことがエオは何より、怖かった。




