ヤンデレと駄々
エオは飛んでいる。大きなケーキが逆さまに見える。いや、ケーキだけじゃない。豪華な飾りもここにある全ての物が逆さまに―。
「ギャフンバ!」
エオは見事に顔面から落っこちた。
「エオの馬鹿! ロリコン! 変態!」
キャロルの罵声は家中に響いた。
祝賀会に参加していた全員がエオの無様な姿を見て、失笑している。
そんなエオに近づく二つの陰。
エオは顔上げた。そこにいたのは、メウとビス。年齢は一〇歳。
心配そうに見つめている、透き通る水色の髪の綺麗なロングがメウ。
悪戯な笑顔でエオの顔を覗き込んでいる、明るいパステルグリーンのショートボブがビス。
二人はソラーノ島の末端の末端、トリノコ島から遥々、ここの家に引っ越してきた。
トリノコ島には昔ながらの文化が強く根付いているらしく、婿を作るか、子供を作るかのどちらかをクリアしなければ、二度と島には戻れない。
一〇歳に与える試練とは到底思えないが、この世界ではあまり驚く者もいない。
「大丈夫?」
「平気なのだ」
「そりゃ、ビスは平気だろう! 殴られたの、僕だからな!」
エオはキャロルを睨みつけた。
「なんで殴るんだよ! いつもいつも!」
「今のは殴られて当然でしょ! 一〇歳の女の子に手を出すなんて、頭、可笑しいんじゃないの?」
「じゃー、なにか? この島に一〇歳は結婚できないみたいな法律でもあるんですか??」
会話の流れだけ聞くと間違いなくエオが危ないやつだ。
「ないけど、常識を考えたら……」
「ごめんなさい、僕この島に来て日が浅いのでわかりませーん」
「今更、そんな言い訳が通じるとでも!」
二人が睨み合っている間、ホルセとメウ&ビスはこんな会話を繰り広げていた。
「二人は本当に結婚したいのか?」
「勿論だ」「当たり前なのだ」
「そうか、まさかこんな女の子に負けるとは……」
「負ける?」「ホルセは負けたのだ?」
「いや、こちらの話だ」
ホルセはそう言い残し、エオの肩を叩いた。そして耳元で囁く。
「私はいいが、二人にはちゃんと答え、出してあげな」
「た、確かに……」
さっきは完全にロリコンモードになっていたが、ちゃんと言わなくてはならない。
「二人の気持ちは嬉しいけど、今は無理だ……」
「そうか」
メウはしっかりと受け止めてくれた。
「えー、けちなのだ!」
ビスはその場で駄々を捏ね始めた。
「ビス、ごめんな。好きな人がいるんだよ」
「エオの好きな人って?」
メウが食い付いてきた。
「ピースって女の子だよ、今はいないけど、いつか紹介する」
「分かった、その女がエオの心を射止めたのね」
「ま、まぁ」
「じゃ、ヤってしまうとする……」
「怖いことこの上なしかよ! 絶対、会わせられないよ!」
メンヘラ? っていうより、ヤンデレなメウと対照的にビスは告白のことなど忘れてケーキ口いっぱいに詰め込んでいる。
「だ・め?」
「可愛く上目遣いしてもダメです」
うぅ、と声を漏らし、落ち込んだ表情でビスに駆け寄った。
「ビス、いつか私たちで、エオのハートを頂くよ」
「まっかせってよー、メウ」
そう言うと、二人は仲良くケーキを食べ始めた。
「これでいいんだよな……」
告白はとても嬉しい。しかし、あの二人が結論を出すのはまだ早いのだ。
「てか、手に持っていたのって、結局何だったんだ?」
ケーキに夢中になっている二人の手にはそれはなかった。
「これを探してるんでしょ?」
キャロルの手にはさっきまで、メウが持っていた箱と。
ビスが持っていた鍵があった。
「この鍵って?」
「そうよ、封印の鍵よ」
「あいつら、これをプレゼントとして……?」
「一〇歳だけど、やっぱり、手加減出来る相手じゃないわね……」
「手加減って、流石に本気で殴るなよ?」
「そ、そっちのほうじゃなわよ!」
急に怒ったり、殴ったり。と思えば優しくなったり、必死で頑張ってたり。
エオにとってキャロルのことを理解するのは難しい。
「そうだ! エオ、私からも鍵あげるわよ」
「え?!」
キャロルはポケットから鍵を出した。
「もしかして、叶ったのか……?」
「そうよ……」
「最近、お腹が出ているような、気がしてたんだよ!」
「だーかーらー! そっちじゃないっての!!!」
朝から始まったパーティーは、まだまだ、終わらない――。




