匿名とアハキラバ島
※大変、読みにくい文章になっていますが、ご理解いただけますと幸いです。
エオが報酬と題して、クライドに渡したいものとお願いがこの手紙に記されていた。
〈クライドさんへ〉
〖この手紙を受け取ったということは、無事、マンドラゴンの実を渡すことが出来たということでいいですよね。
私は今から、一ヶ月掛かると言われた水やりでできるだけ、短時間で終わらせます。
何日、徹夜するか分かりませんし、直接会う前に、多分、力尽きると思うので、失礼を承知で手紙として、報酬の代わりになるものを差し上げます。
それはマンドラゴンの実、全てです。
言わなくてもクライドさんはトリノコ島に届けてくれると思います。
それでも、きっと、いくつかは残るでしょうから、そちらは、売るなりして頂けるとお金になると思います。そちらでどうにか、この件に費やした費用に当ててください〗
〈エオより〉
【P・S クライドさんはきっとお金にするつもりなんてないでしょうけど】
「ふ、ふっはっは」
「ど、どうしました?! 隊長?」
「いや、つくづく、エオは面白いやつだ。国王様が気に入るのも、無理はない」
「は、はぁ……」
「早速、トリノコ島にマンドラゴンの実を転送するぞ」
「は!」
「それとだな、今現在、O-B117で苦しんでいる人の数を調べてくれ!」
「え? 何故ですか?」
「それはな―」
広大な畑に青々と育ったマンドラゴンの実が風で揺れている姿は、まるで、何かに笑いかけているようだった―。
「早く、エオ出番が来てしまう」
ここはアハキラバ島。ヲタクによるヲタクのためのヲタクフェスティバル。通称、ヲタフェスが開催されている真っ最中だ。
今、ホルセとエオとグレイは、あるブースに向かっている。
「人込み凄いですね」
「そうだろ? 様々な種族がこんなに一斉に集まることなんて、滅多にないぞ?」
グレイもばっちりコスプレを決め、楽しんでいる。元々、ワイルドな印象のグレイだが、騎士の格好はなんとも似あう。
「ここがアイドル会場だ! 私はあっちのほうから入るからエオ、グレイ。ちゃんと見ていてくれよ!」
「おう、任せとけ!」
グレイはカメラをばっちり構えている。
「エオ、行ってくる……」
「頑張ってください、期待しています!」
エオも満面の笑みでホルセを見送った。
ピロリん。
エオのステータス画面に何やら、メッセージが届いた。
「クライドさんからだ……」
長文だが、要約するとこうだ。
『マンドラゴンの実は有意義に使わせてもらった。ありがとう』と。
「クライドさん・・。こちらこそありがとうございましたっと」
テレビでO-B117の発症者は全員、回復したとどの放送局でもトップニュースになり、世間をにぎわしている。
匿名でマンドラゴンの実が全国に届けられ、患者だった者からどうかお礼を言いたいという声も上がったが、エオもクライドもノーコメントままだ。
それは悪用されないためでもある。
マンドラゴンの実は希少価値が高く、高値で取引される。それは決して、二人が望んだことではない。
「エオ始まるぞ!」
「はい!」
グレイとエオは出来るだけ最前列に行き、ホルセの華やかな踊りと素敵な歌声を満喫した。
「今日は楽しかったです!」
「いやいや、こちらこそ、この姿はエオに見せたかったんだ」
帰りの船の中、グレイは先に帰ってホルセの写真をネットにアップすると言い、嫌がるホルセを押し切って一つ早い便で帰ってしまった。
「そう思えば、僕を転生して、マサルトクリニックまで運ぶことができるんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「じゃ、飛んで帰れるんじゃないですか? 船とか使わなくても?」
「あれは距離も近いし、道具も完ぺきに揃った状態だからできたんだ」
「そうなんですね」
この世界に転移する前は、魔法は便利だとばかり思っていたが、そうでもない。
色々な規律やそもそも、持って生まれた魔力量や種類、又は種族によっても異なる。
農業一つに置いてもそうだ。
今回は必至の覚悟でマンドラゴンの急育成に成功したが、確信があったわけじゃない。
エオはただ、この能力を、スキルを信じる以外の道がなかった。
他に道があったとしても思いつかなかった。それだけのこと。
なんて、格好つけられない。正直、エオはパニックて本当、どうにかならないのかと、半ばやけくそに頑張ったのだ。
「それにしても、本当にエオはすごいよ」
船の屋上部分に来ている。風が気持ちよく夕日が痛いほど眩しい。
「いや、本当にみんなのお陰ですから。キャロルの眠気が来ない栄養ドリンクとみんな一晩声をかけ続けてくれたから、無事、どうにかなったんですよ」
「きっと、ピースも喜んでいるぞ?」
「だと、いいですね、あ、そうだ」
ステータス内にソラーノ島の住人幸せを集める目標を数値化して表してくれる便利なシステムがある。
『337』という数字の横に『8』とに表示されている。
「予想より増えているな」
増えているならいい傾向だろう。
「エオはピースのこと、好きか?」
「え、ちょっといきなりなんですか?」
動揺してしまった。
「いや、その行動を見れば答えを聞く必要もなさそうだ」
ホルセが切なく、笑う。
「エオ、私は、君が好きだ」
「え?」
「もう一度言うぞ? 私は君が好きだ」
エオにとって予想どころか、考えてもいない言葉だった。
「いや、てっきり、グレイさんのことが好きなのだと…………」
「そんなわけあるか、あいつは最早、家族だ。お互いの趣味の良き理解者だが、恋人になるなど、絶対にありえない」
「そう、なんですね」
二人は黙ってしまう。
「あの……」
「答えは言わないでくれ」
「えっと……」
「ピースのこと好きなんだろう?」
「はい……」
「私は約束したはずだ。ソラーノ島を妖精が暮らせるぐらい幸せいっぱいの島にすると。その志は決して揺るがない、キャロルも同じだ」
ホルセは前に何歩か進み、エオの方へと振り返る。
「これからも、よろしくな、エオ」
目が眩んだ。それは夕日の眩しさではなく、ホルセの笑顔に、だ――。
次回
平和な日常生活に戻る、はず?の巻




