出荷箱とキス
ソラーノ島に来て、四日目の朝。エオはあることに気が付いた。
「ピース、今日こそは、農業しよう!」
それはまだ、作物を育てていないことだ。
「そうですね。そうしないと収入ゼロですもんね」
「痛いこと言わないでくれ……」
エオはこの島に来て、村長のマトソムからこの島に住む魔物を封印し、呪いを解くため、七つの鍵を集めてほしいというミッションをクリアするために日々を過ごしていた。
この島に転移してからというもの、そのことばかりに夢中になり、結局、牧場は雑草を抜いて綺麗に整地しただけの状態だった。
「エオは、私が居なかったらどうするつもりだったんですか? 釣りが壊滅的に下手くそだから、食べ物に困ってたかもですよ?」
「感謝の限りです……」
ピースと暮らすことで何とか、餓死せずにここまで来た。
ピースは恐ろしく魚釣りが上手い。スキルに魚大量スキルがあるらしい。
「お互い様ですよ、エオ。私が釣って、エオが美味しい料理を作る、適材適所です!」
「そうかな? そう言ってもらえると、有り難いよ。でも、たまには僕も洗濯するよ? 任せっぱなしじゃ、申し訳ないし」
「洗濯だけは断じて私がしますから!」
食いかかる勢いで、エオの提案を否定するピース。
「ピースが、それでいいならいいけど……?」
エオには理由が分からないが、ピースには洗濯スキルでもあるのだろうと、勝手に解釈した。
「それで、エオ。種はもう、買ったの?」
「あー、それもそうだね、種屋の場所は知ってるから、ピースも一緒行く? 家にいてもいいけど?」
「行きますよ! デートですね……」
「あ、えーと、そ、そうだね……」
ピースはエオに恋をしている。告白もした。なのに、返事をしっかりと返して貰っていない。
エオはエオで、悩んでいる。変に真面目で、出会って数日しか経っていないのに、付き合うことが、恋人になることが果たしていいのか、と考えるたび、頭がぐるぐるして痛い。
「エオ……?」
「え! あ、なに……?」
「は、早く行こうよ、朝のうちに種をまいた方がいいって聞いたことあるし?」
「そうだね、お互いの支度が済んだら、出発しようか?」
流石、人間関係に悩んできた二人。距離感が上手く掴めない。気まずい空気のまま、二人は支度を始めた。
「そんな服、持ってたの?」
いつも、味気ない、印象にすら残らない服装なのだが、今日は違う。
真っ黒なボトムスに、ピンクのシャツジャケット。いつも同い年と思って接していたが、これだと圧倒的に大人だ。
「買ったんですよ? 時間があるときに魚を《出荷箱》に納品していたら意外と稼げたので」
「出荷箱?」
「外に置いてある箱ですよ、ここに何かを納品すると、数秒でお金と交換してくれるんですよ。需要と供給によって、値段の変動があるんですけどね」
「凄いな、やっぱり、これも魔力の力か……?」
「まぁ、そうですね。エオが住んでたとこはまだ、普及していなかったんですか?」
「ま、まぁ、そうだね……」
というか、そもそも、魔力も道具も、ましてや、淫力なんて存在していなかったのだが。
「それじゃ、行きましょうか?」
ピースが家の扉を開く。
「あ、あの、ピース……」
「なんですか??」
「似合ってるよ、その服、とても、その、可愛い、です」
「え! どうしたの、エオ? そんな気の利いた台詞を言うなんて……?」
「僕だって、いつも、誰にでもこんなこと言わないし、え、違う、その口説くつもりじゃなくて、正直な感想といいますか、その……」
目を瞑ってしまった。
別に恥ずかしくて、そんなことではない。
「…………」
目を開けるとすぐそばに、ピースがいる。初めての感触。唇から体温を感じる。
「え、今のって…………!」
「これは褒めてくれた、お礼です!」
綺麗なピンクの髪の彼女はいたずらに笑っていた。




