エオと――。
「…………これで、大丈夫」
シルはピースをカプセル型の機械からゆっくりと救い上げた。
ホルセとグレイはジーゼル。
パンヌとアルはエルゼを助けたところだ。
三人の妖精はかなり弱ってはいたが、喋れないほどではない。
「…………助けてくれたのか? 有難い」
ジーゼルは深くお辞儀した。
「……いえ、エオの意思なので」
シルは多くは語らない。
皆も同じだ。
「……エオは、何処だ?」
ピースは意識が戻るや否や、一言目がそれだった。
しかし、それに応える者はいない。
「…………もしかして!」
ピースの顔は青ざめたが、グレイは、
「違う、そうじゃないんだ」
と、最悪な結果でないことを知らせた。
だが、それ以上は言わない。
ピースは周りの顔を伺う。誰一人として笑顔はない。メッキガーデンの姿がないし、新手の敵もいない。勝利を収めたはずなのに。
「……ピースと言ったかの?」
そんな空気の中、喋りだしたのはスパルシアだった。
「…………はい」
「エオがここに居ないのは、わしのせいじゃ。すまない!」
スパルシアは頭を深々と下げた。
その姿に、ピースは理由を問う。
「何故、エオはいないのですか?」
「それは――」
それは予想だにもしない、現実だった。
「…………戻ってきたんだな」
人混みの中、――は立っていた。騒音も、香水の匂いも、あの時もよりも、敏感に感じる。
「…………はぁ、どうすっかな、これから」
――は、今更学校にも行けず、帰宅することにした。
電車に乗って、都心から離れたマンションの一室に辿り着いた頃、――はやっと実感していた。
「戻ってきたんだ」
そう。
何処か分からない世界で色んなことに巻き込まれながらも、成長していった日々。
楽しいことも辛いこともあったけど、最高な日々だった。
――はポケットから学生証を取り出す。
本来なら今日は入学式だ。
しかし、すっぽかしてしまった。
まぁ、どうでもいいか。
その手帳には『鈴木拓真』と書かれている。
「ははっ、僕って、こんな名前だったんだよ」
笑ってはみるも、誰も反応はない。
終わったんだ。
そう思うと涙が溢れる。
あの瞬間、あの世界では拓真は間違いなく、神様になりえる力を手にした。
だが、本当に神になるわけではない。
神になれず、でも、世界に馴染めない。そんな異端者はどうなるのか。
その答えが今の彼だ。
「…………」
拓真ゆっくり瞳を閉じる。
どうしようもない、虚無感。
時計の秒針が進む音だけが鳴り響く。
「…………エオ、どうしたんだ?」
今でも聞こえる、ピースの優しい声。
実際一緒にいた時間は長くはなかった。
でも、二人で過ごした時間は本当に幸せだった。
「泣いてないで、こっちを向いて?」
まるで本当に傍にいるようだ。
大好きだって伝えておけば、後悔も少なくなるだろうけど、今では叶わぬ夢だ。
「ほら、立ち上がって!」
手に感触が。
「……え?」
拓真は瞳を思いっきり見開く。
「来たよ! エオ!」
そこにはピースがいた――。
次回。
最終回。




