聖域と旅
ゲルリカは魔力を増加させるだけではない。
魔力を変化させる能力も秘めている。
その結果、エオの魔力はこの世界で最強になった。
しかし、それだけではメッキガーデンを倒すことは出来ない。
魔力を最大にまで引き上げ、それをコントールしてこそ、勝機が生まれるのだ。
スパルシアはこの魔愚を使うか、迷っていた。
この魔愚を使えば、エオはこの世界には留まることは難しい。
でも、やらなければ、全滅だ。
答えは鼻から決まっていたのだ。
娘である、シシカを種馬のように見捨て、孫すらも大事にしない。そんな奴を殺すにはもう、エオに頼るしかない。
スパルシアがこの魔愚を使う場合、意識を保っていられる可能性は低い。だが、その代わり、エオがメッキガーデンを倒せる確率は格段に上がる。
それなら、やるしかない。
魔愚――聖域を使う。
「…………エオ、後は任せた」
そして、スパルシアは倒れた。
エオはこの輝きが何なのかは分からない。
ただ、分かっていることがあれば、メッキガーデンを倒すための策略が湧き水のように溢れてくるのだ。
「…………できる」
エオはこの圧倒的な力の差の前でも、怯まず、勝てると信じることが出来る。
「ははっ! 笑わせるな! エオ、お前じゃ私には勝てん!」
メッキガーデンは両手を広げ、空中に氷の刃を作り出す。
それはエオ目掛けて降り注ぐ。
「まだだ、まだだ!」
メッキガーデンは攻撃の手を休めない。
雷は轟、風は吹き荒れ、炎は周囲一帯を焼き、闇は空間を支配した。
エオの姿はもう、見えない。
これ程の魔法を食らっては、生き残れる訳もない。
しかし、エオはそこに立っていた。
身体中に魔力を靡かせ、何食わぬ顔で立っていた。
「…………ほう、この攻撃を食らっても倒れぬか」
メッキガーデンが次の攻撃を繰り出そうとした。
しかし、そう、しなかった。
いや、出来なかったのだ。
「……ぐはっ!」
ただでさえ、細く、貧相な身体はみるみるうちに、縮んでいく。
「消えたくない! 嫌だ!嫌だーー!!」
そして、遂にはなくなってしまった。
エオは勝利したのだ。
エオ自身何が起こったのか分からない。
ただ、願ったのだ。
メッキガーデンが消えてほしいと。
それは現実になった。
そして、エオは倒れている、仲間を回復させる。
次々と起き上がる仲間はエオを見て驚いている。
エオは不思議に思った。
自分の背中から、何やら、羽のような物が生えていることに。
「エオくん、それは…………」
「シルどうしたんだ? そんな顔して?」
「…………神になったのか?」
神って。
エオはくしゃっと笑った。
しかし、周りを見渡して分かってしまった。
この世の存在ではなくなってしまったことに。
「…………すまないエオ。こうでもしなくては、あいつを倒すことは出来なかったのじゃ」
スパルシアは深々と頭を下げる。
「僕は、もう、ここにはいられないみたいですね…………」
頭では何も理解できないが、身体中の魔力で感じてしまう。
自分はこの世界で生きられないのだと。
いや、正確に言えば、生きていてはいけないのだと。
エオは羽をたたみ、ピースの元へ近づく。
「…………やっと、やっと、会えたのに、お別れのようだね」
エオはピースにそっと、口づけをした。
そして、仲間に一礼した後、エオはこの世界を旅だった――。




