シルの名を継ぐ者と死の瀬戸際
「この階段は長いのぉ…………」
スパルシアは息が上がり、かなり疲労しているようだ。
それも仕方ない。この螺旋階段は終わりが見えず、まだまだ先は続いているように思える。
「無理をなさらず、スパルシアさん」
まだまだ余裕な表情を浮かべ、年寄りを労った。
「はは、こんな時じゃないと無理する機会もなかろうて。それよりレオルは大丈夫か?」
「はっはっ、よ、余裕ですよ…………ふぅー」
どこからどう見ても、余裕じゃないレオルは勿論、強がる。こんな状況で弱音を吐けるわけもない。皆疲れているのか。
「もしかしたら、セカンドという女は嘘をついていたんですかね?」
「…………そうかもな」
レオルのような考えはずっと前から懸念していたことだ。
しかし、その可能性は低い、とここにいる誰もが思っているのだ。
それはセカンドを含めた、シル・マッカザージルの複製体を見て、聞いて、感じた結果、あの表情や発言に噓が感じられなかったからだ。勿論、演技なのかもしれない。それを否定は出来ないのもまた事実。
そんな不安定な感情のまま終わりが見えない階段をひたすら、登っていく。
「メッキガーデン様、侵入者、全員がもうすぐしたら、ここへ辿り着きます」
「そうか」
「…………嬉しそうですね?」
「あぁ、お前たちの力を試すにはもってこいの獲物だからな」
「なるほど、私たちも本気で戦っていいのですよね?」
「あぁ、勿論だ、そうじゃなきゃ意味がない」
「有難きお言葉、感謝します」
三人の少女と一人のオリジナルは不敵に笑う。
それを見つめるのはシルの複製体としてこの世に生を受けたファースト。
「あいつらまで動かすのか、やばいかもね?」
そう、ポツリと零してその場を後にした。
「…………着いたのか?」
流石のクライドも疲れを露にしている。
そこはだだっ広い、空間だった一点を中心としてドーム状に広がり、壁にはいくつかの扉がある。
何やらそこから人影見える。
「エオ!」
クライドは叫ぶ。
「あ、クライドさん! 無事でしたか、良かった」
「当たり前だ、それより、他のメンバーは?」
今、確認が取れるのは、エオ、パンヌ、シル。そしてスパルシア、レオル、クライド。ということは、アル、グレイ、ホルセがまだのわけだ。
「無事、だよきっと」
理屈じゃない。そう願うことが大事なのだ。
そんな時だった――。右側の何本も立っている柱の後ろに人影が見えたのを、シルが確認する。
「誰だ!」
「…………俺だよ」
「グレイ! それにホルセも!」
その姿を見て、安堵したが、それは一瞬の感情でしかないことを知る。
「どうしたんだ、その姿…………」
「ちょっとな、派手にやられちまって。でも、ホルセのおかげで、一応、生きているよ」
その姿を見て動いたのはパンヌとシルだった。
「ヒーリング」
二人がそう唱えると三人の傷が癒えていく。
いや、四人だ。もう一人誰かがいる。
「彼は?」
エオはその人を見て、一瞬でどんな奴なのか理解できた。
複製体の一人だろう。シル・マッカザージルを模範して作られた魔愚。
「彼の名前はイレブン、大丈夫だ、敵じゃない」
そう言うと、グレイは微笑む。
その言葉に便乗するように、
「イレブンは私たちと戦ってくれたんです」
とアルが付け加える。
エオはホルセの方も確認するが、ニッコリと笑みを向けてきた。
つまり、イレブンは、
「味方なんだね?」
「あぁ、今のところ少なくともな」
それなら安心だろう。それに味方多いに越したことはない。
「あ、それなら、ファイブも連れてくれば良かったんじゃない?」
「はは、確かにね」
と言いながらも、何処か影があるシル。
エオはここに何故ファイブを連れてこなかったのかは、実は少し分かっている。
きっと、危険な目に合わせたくないのだろう。
今から、戦うのは、シルよりずっと強い、最強の男、シル・メッキガーデンなのだから。
「回復終わったよー」
「あぁ、ありがとう」
グレイはお礼を言うと、周りを見渡す。
「誰もいないのか?」
「あ、そう思えば確かに」
この場所についてある程度時間は経つが人の姿が見えない。
だが、そう思った時には、現れるのだ。
招かれざる客が。
「ようこそ、皆さん、最後の試練の間へ!」
そのアナウンスと共に、ピンクの煙幕が投下される。
不意打ちだったので、誰も反応が出来ない。
「みんな、大丈夫?!」
エオの声に反応がある、バラバラになったわけではなさそうだ。
煙幕が晴れると、目の前には四人の女性が姿を見せた。
「私たちはシルの名を受け継ぐものです、さぁ、殺り合いましょう、どちらかの命が終焉を迎えるまで!」
エオの身体は震えた。
それは決して、武者震いとかではない。
目の前の敵の圧倒的な魔力量に、身体反応しているのだ。
「……まずいことになったね」
シルの額にも汗が滲んでいる。
ホルセもグレイも、緊張で伝わってくる。
エオは覚悟する他なかった。
自分が死の瀬戸際にいることを――。




