パンヌとマッカザージルとエオpart2
「……どうしてかな?」
「いや、あの……。あいつが一番弱そうだから……かな……?」
「……エオくん…………?」
「いやいや、なしなし、ごめんごめん、ジョークだよ、はーははー!」
シルに凄い顔で見られた。
でも、エオは本気だ。茶髪以外と戦うと死ぬ未来しかない。
考えてみてほしい。魔法を自由自在に使う奴らに魔力量だけ半端ない、魔法を一個も使えないような宝の持ち腐れ野郎が勝てるだろうか。
無理だろう。どれだけ新魔力だと、神義の極みなど言われようが、強くなった実感もなければ実績もない。
こんな状況で戦っても勝てるはずがないのだ。
「それでは対戦相手を決めるよ、どうやって決めるかというと……」
「ちょっとまって。選べないの?」
「え、それじゃ、面白くないでしょ?」
面白いかどうかではない、エオにとっては死ぬか生きるかの選択なのだ。
「それじゃ、このルーレットで決めようか」
そこには三人の顔が描かれた、ルーレットがあった。
敵のも同様にある。
「それじゃ、一回戦目の対戦です! 張り切っていくよー、せーの!」
ファイブの掛け声と共に、回る二つのルーレットが指示したのは。
エオとハンマー男の顔だった。
やばい。
「最初はエオ、とゴルゴラーダの対決だね」
なんだ、そのあまりにも強そうな名前はとツッコミたいがそれどころではない。
「……エオくん、頑張ってね」
「シル? もしかして君は敵なのかい?」
「いや? 何で?」
「あんな奴に勝てるわけないだろう!」
「大丈夫だよ、その魔力があればあの程度直ぐに片付く」
「いや、使えないんだって! 魔法!」
「え、まぁ、でも、うん! 勝てるよ」
「あー! 今絶対やばいと思ったね!」
「……大丈夫! 魔法は感覚だ、イメージでどひゃーってやってぼかんってやればひゅひゅいといけるさ!」
「お前ってバカなのか? それとも僕に死んでほしいのか? どっち?」
「どっちも違うよ、エオくんにも分かり易いように、オノマトペ多めで魔法の使い方を教えただけだよ?」
「僕を馬鹿にしてのたのか!」
シルははははっといつも通りの笑い方で、エオの背中を押した。
「まぁ、きっと、勝てる、少なくとも僕は信じてるよ」
本気で言っているかは定かではないが、確かにシルの期待を感じた。
「……わかったよ」
「準備はできたみたいだね、それでは、二人ともリングへ!」
強大なハンマー男こと、ゴルゴラーダがリングに飛び込んできた。
ドスンっとリングが揺れる。
あのジャンプ力、ただのデカブツではなさそうだ。
エオもゆっくりリングに上る。
「……あの、お手柔らかにお願いします?」
「あぁ? 死ぬか生きるかのデスマッチに優しくできるわけないだろうが! 俺も本気でいく! お前も本気でこい! どの結果になっても恨みっこなしだ!」
敵とは思えない格好いいセリフ。
エオもそう思っているが、この状況でそれを言われたら、気が気ではない。
「それじゃ行くよ! 一回戦目、ゴルゴラーダ対エオ! スタート!」
開始の合図とともに、ゴルゴラーダはご自慢のハンマーをエオに叩き下ろした。
「やば!」
エオはすれすれで避ける。しかし、その攻撃のまま、横殴り。上手く繋げたコンポにエオは反応できない。
エオは死ぬのかとこの一瞬で走馬灯が走る。
この世界に転生し、ピースや色んな人に出会った。キャロルやメウとビス、キャロルやクライド。出会ってからそれほど月日が経っていないのに、とても濃厚で良い思い出だ。
あぁ。それも今日で終わり。もっと、魔法について学んでいればよかったなぁ。
ピースはすぐそこにいるのに。
エオは手を伸ばす。
視界が真っ暗になっていく。
実際に手を伸ばしていたのかは分からない。視界が暗くなったのは瞼を閉じただけかも知れない。それでもそう感じ、そう思ったのだ。
そしてそれと同時にこうも思った。
終わりたくない。
このまま、もし、現実世界に戻って高校生になっても友達もできないだろう。できたとしても、こんな楽しい経験はできないだろう。
それに、ピースを守ると誓ったはずだ。
そうだ。
ここで負けてはだめだ。
「魔法のコツは……」
ゴルゴラーダのハンマーが止まる。
それはエオの魔力に違和感を覚えたからだ。
「イメージでどひゃー……」
「な、なんだ、あの魔力は!」
エオの股間が光りだす。装着していた魔愚は消え去り、そして徐々に全身に新魔力が巡っていく。
エオも実感している、全身に何かパワーを感じる。
「そして、ぼかんと!」
エオはその擬音をどう表現するか、迷っている。
いや、迷う必要はない。イメージだ。目の前のハンマー男をぼかんとする方法。
ぼかん……。
爆発!
「なんだ! お前俺に何をしたんだ!」
ハンマー男がエオと同じ光に包まれる。
「あついあついあつい! やーめーろ!!」
「爆ぜろ!」
リング上でゴルゴラーダは砕け散った。
血も肉も骨も残らない。
それほどまでに粉々になくなった。
「……ほぉ、流石に凄いね」
ファイブはにやにやしている。
「エオ、お疲れ様~、魔法使えるようになったね、僕のアドバイスが役に立ったのかな?」
シルはリングに上がりエオに近づいた。
「……殺しちゃったんだな」
エオはかなりへばってしまった。
初めての魔法に驚いたのも勿論あるのだが、人を一人殺してしまったという罪悪感に襲われた。
トリノ湖でも確かに、シルのニセモノを倒しているが、あれは魔愚だったことが明らかになり、そう苦しくは思わなかった。
しかし、目の前にさっきまでいた、ゴルゴラーダは確かに人間だった。クローンだろうが、会話をし、前のニセモノと違う、自分の意思を持った人間だった。
「エオ、あれは人間じゃない、こんなことで落ち込んでいる暇はないよ」
「…………分かってる、けど」
エオはなかなか、リングから出ようとしない。
「早くリングから降りて下さい~、次の試合を始めるよ~」
ファイブの声に苛立ちを覚える。しかし、怒る気力も元気も残っていない。
「エオ!」
シルはエオの肩を揺する。
しかし、動かない。
シルはどうすればいいかわからない。
分からないが、この気持ちはわかる。不安で怖くて自暴自棄になって。こんな時シルはお父さんにどうしてほしかったか、それを思い出した。
「ちょ、シル……?」
シルはエオに抱きついた。
「大丈夫だよ。僕たちがいる、エオくんが辛いときは僕らが戦うさ」
つい先日まで敵だと思っていた相手に励まされ、エオは何とも複雑だった、なのに、心は穏やかになっていく。
「……ありがとう、シル。でも男同士で、しかもリングの上で、抱きつくって、どうよ?」
「はは、確かに……」
二人はリングから退場した。
今までない、確かな絆を確かめながら――。




