エレスとマフィンとハーブと毒
少しだけ、寄り道します。
「……また、失敗か?」
ここはソラーノ島のシュナリー料亭。ソラーノ島付近で採れる新鮮な野菜や魚をメインに昼はランチ、夜は酒場を経営している。
そこに看板娘のマフィンという少女と種屋のエレスとその父親であるハーブが大きな鍋を囲み、ある物を開発している。
「うーん、この近辺に生えている毒性の強いキノコをベースにしているから、ある程度魔法使いでもダメージは受けると思うんだけど、このレベルだと解毒魔法であっさり治ってしまうのよね~」
マフィンはお手上げといわんばかりに両手を挙げている。
今、作っているのは、魔法使いにも使える有毒な物質。
作成を開始して早四日。毒自体は作れても、その毒性は低く、魔法使いであれば簡単に解毒魔法で治ってしまうレベルのものばかりだった。
「……どうすればいいんだろう? パパは何か思いつくかな?」
「そうだな、考えがないわけでもないが……」
「なによ、パパ。もったいぶらず言ってよ?」
「…………マンドラゴラの実を使ってみるのはどうかな?」
マンドラゴラの実。どんな難病に効くと呼ばれる幻の果実。しかし、その栽培はほぼ不可能と呼ばれている。
理由は一か月の間、寝ずに魔力を込めた水をやり続けなければならないため、常人の魔力量で確実に底がつき、ならば、交代制でと思ったが、魔力が異なる者だとすぐに枯れてしまう。実施、一人が寝ずに一か月程度水やりをし続ける必要があるのだ。
そのマンドラゴラの実は価値は物凄いもので、貴族や王様クラスしか手に入れることはできなかった。
しかし、エオの活躍により、マンドラゴラの実を大量生産し、難病だったO―B117に悩まされていた世界中の患者もエオによって救われた。
その栽培は種屋の畑を借りて行われ、その時にお礼ということで何個かマンドラゴラの実を分けて貰っていたのだ。
「……でも、マンドラゴラの実は病気を治すんでしょう? それ混ぜたら、毒性も消えちゃうんじゃ?」
エレスの意見はごもっともだ。マンドラゴラの実は難病すら治してしまう。そんな奇跡の果実を毒に混ぜたところで何の意味があるというのか。
「……いや、マンドラゴラの実はどんな難病にも効くと言われているが、どんな病気にも効くわけではないんだよ」
「…………?」
「マンドラゴラの実はO-B117や魔力枯渇、後は精神安定剤などには使用できるが、風邪などには全く効果を示さない、つまり、マンドラゴラの実の力は魔力を最大限回復させる力なんだとわしは思う」
マンドラゴラの実が治せるのは、魔力が関わっている難病や病気だということだ。
「……でも、もしシル・マッカザージルだっけ? その魔法使いの魔力か完全回復しちゃったら何も意味がないんじゃ? むしろ、回復しちゃったら……」
「いや、マンドラゴラの実は単に魔力を回復させるだけではないと思う、それだと難病は治らないからの」
「……じゃ、どんな効果があるの?」
「マンドラゴラの実は魔力を入れ替える奇跡の果実なんだよ、つまり、一旦空にしてからその人が持っている最大限の魔力を引き出すんだと思う、そうすることで魔力に寄生した病原菌を追い出すことができるのだよ、きっと……」
「……うんうん、いけるかも~!」
マフィンは二人の話を聞きながら何か閃いたようだった。
「毒を作るんじゃなくて、マンドラゴラの実の魔力を吸収するちからを利用して、魔法使いの魔力を吸収して、その魔力を毒で打ち消せれば……。うんうん、いけるよ~!」
マフィンは一人で納得したようで、鍋でキノコや雑草を煮込み出した。
「それじゃ、ハーブじぃ! マンドラゴラの実を持ってきて!」
「ほう、年寄りに優しく……」
「早く時間がないから!」
「はいっ!」
ハーブは急いでマンドラゴラの実を取りに帰った。
「……本当に行けるかな?」
エレスは理解していないので、不安になっている。
「きっと大丈夫よ~、毒の方向性を変えたから、これならいけるよ~」
エレスの不安を余所にマフィンは自信満々だ。
その後、マフィンは徹夜で作業をした。エレスも寝るに寝れず、マフィンの手伝いをし、ハーブはやはり年寄りなので、シュナリー料亭のソファで寝てしまった。
そして、ハロニー漁港に皆が集まる日。
ついに完成した。
「…………よし~! できたー!」
「おぉ! ほんと?」
「うんうん、これで、どんな魔法使いが来ても大丈夫! 相手の魔力を枯渇させることができると思う!」
「……それじゃ、届けよう!」
「どこにいるの~?」
「確か、パパがエオたちはハロニー漁港にいるって言っていたけど?」
「わかった~、私もエオさんに渡したいものがあるから~、一緒にいく、準備するから少しだけ待ってね~」
エレスはマフィンが準備を済ます間、シュナリー料亭で寝ていたハーブに一言かけ、一通り片付けた。
「あら~、エレスありがとうね?」
「……なに?」
「え?」
「その恰好は何よ?」
マフィンは物凄いおしゃれをしている。
「何って私、花嫁だもん~」
「そんなことしてる場合か! せめて靴はスニーカーにしろ!」
「はいはい~」
そんなこんなで二人はハロニー漁港へと向かった。
ハロニー漁港では確かにみんな勢ぞろいだった。
しかし、なんだろうか、この違和感は。
「…………エオ? 何があった?」
「………………」
無言だ。でもただ無言なわけではない。
殺意。何かを覚悟した強い目をしている。
「……エオ…………?」
「……あ、あぁ、エレスさんか、久し振りですね?」
「あぁ、それより遂にできたんだ!」
「……?」
「魔法使いを倒すアイテムだよ!」
エレスは嬉しそうにしたが、周りの空気を察し自重した。
この後、マフィンからこのアイテムについて説明を受けたエオは、まだ、自分の魔法が使えないまま、メジザ島を目指した。




